ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「──待たせて、すまなかったね。こちらから誘っておいて、申し訳ない」

 20分程してやって来た高嶺は、穏やかな笑みを浮かべながら、奈津の隣の席に腰を下ろした。

「いえ、僕も来たところですので……お忙しかったんじゃないですか?」
「いやいや、大丈夫だよ。何飲んでるの? ビール? じゃ私も同じものを」

 オーダーを取りに来たウェイターに告げると、高嶺は窓の外に目を向けた。ついさっきまで薄明かりに包まれていたのに、もう夜の帳が下り始め、街の明かりがちらちらと輝きを放ち出している。

「ここは夜景がきれいなんだよ、ぜひ相川くんにも見てもらいたくてね。でも、私は本当言うと、日が落ちきる前の夕暮れの終わりどきが、一番美しいと思うんだがね」
「あ、それ、分かります。ついさっき、そうでしたよ。とてもきれいでした」
「そうか。では見損なってしまったな。残念なことをした」

 運ばれて来たビールを手に取り、奈津のグラスにカチリと合わせると、高嶺は目を細めてごくりと喉を潤した。

「あの……、伺ってもよろしいでしょうか」
「うん? 何だい?」
「どうして僕を、呼んでいただけたのでしょうか」

 一番引っ掛かっていることだった。結局成瀬からは、明確な答えは得られていない。直接本人に聞けるのなら、それに越したことはないだろう。

「ああ、成瀬くんから、君の評判を聞いていたからね」
「………」

 それは嘘だ。成瀬は、そんなことは言っていない。

「君は、うちよりメルマリーの方がいい? 成瀬くんと一緒の方がいいのかな?」

 高嶺が、目を細めて奈津を流し見た。
 いきなりの指摘に、奈津はどきりとした。

「っ、いえ、そんなことは……呼んでいただけて、光栄です」
「うん」

 高嶺は、にこりと笑った。

 奈津は、内心で狼狽えていた。まさか、成瀬とのことを知られている筈はないと思うのだが……高嶺の目は、何もかも見透かすようで、怖い。

「君は、ピアノを弾くんだってね」
「え?」

 急に話題を変えられて、奈津は少々面食らってしまった。

「はい、そうですけど……」

 以前に本城が、高嶺は何を考えているのか分からないところがあると言っていたことを思い出す。それに加えてピアノの話題を振らた奈津は、どこまで自分のことを高嶺に知られているのかと漠然とした不安を感じた。

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