ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

 メルローズの披露宴は、順調に進んでいった。音響台や照明機器の仕様は基本的にメルメリーと同じだったので、問題なく扱えた。

 担当キャプテンは、先日会った増本だった。ノアールは大きな会場ということもあり、チーフキャプテンの増本が担当することが多いのだという。

 増本は、進行が乾杯まで進んだところで一度だけ、音響台を覗きに来た。

「問題なさそうですね。音量も大丈夫だし、今日はマイクもいつもよりクリアに入ってますよ。さすがですね、このあともよろしく」
「……はい、よろしくお願いします」

 奈津はちらりと、隣の本城を見た。マイクの周波数と音質の設定は本城にやってもらったのだが……小さく頭を下げる。本城にはいつも助けてもらっていると思う。

 やがて前半のプログラムも進み、新郎新婦はお色直しのため退場していった。

「よし、大丈夫そうだな。じゃあ俺は行くから、あとはしっかりやれ。帰りに宴会とサロン、挨拶忘れんなよ。終わったら報告のメールを入れてくれ」

 本城は、初めから最後まで立ち会えないと言っていた。帰り支度を始める忙しいマネージャーを、心細いからといって引き止める訳にはいかない。

「はい、今日はありがとうございました。お疲れ様です」
「何かあったら電話しろ」

 本城は増本をつかまえて、少し挨拶したのち会場をあとにした。

 奈津の緊張とは裏腹に、披露宴は後半も無事に進行していった。キャンドルサービスも花束贈呈も、いつものように感動する余裕もなかったのだが、それが良かったのかもしれない。

「──以上をもちまして、めでたくお開きとさせていただきます。本日は、誠におめでとうございました!」

 司会者の一際明るいコメントに、誰よりも拍手を送ったのは、奈津だったかもしれない。無事に初仕事が終わったという安堵の拍手を、心の中で。これまでにも色んな会場を回ってきたが、今回は妙なプレッシャーもあり、いつにも増して緊張していた。

(お……終わった……)

 ざわざわとゲストが帰り支度を始め出した頃、奈津は半ば放心しながらも、ようやく音源の整理を始めた。気持ちがすっかり緩んでしまい……誰がが自分に近付いていることに、全く気が付かなかった。

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