ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◆

 12月に入ると、街はクリスマスのイルミネーションに溢れていた。それはホテル業界とて例外ではなく、むしろ率先しているきらいすらある。

 市の中心部にあるホテル・メルローズは、地下で駅と直結した18階建ての白い建物で、緩やかな曲線を意識したスタイリッシュな外観は、当時海外の著名な建築家による設計だった。

 1階のエントランスロビーは広々とした吹き抜けの空間になっており、この時期は例に漏れず、入って正面の位置に巨大なクリスマスツリーが飾られてあった。

 見上げる高さのツリーには煌びやかな電飾が施され、その足元には雪深い異国の町並みが精密に再現されており、このツリーを目当てに訪れるカップル多いというのも頷けるような立派なものだった。

 今日は12月の第1日曜日で、奈津のメルローズ初仕事の日だった。マネージャーの本城も同行している。
 奈津がそのまま裏口へ回ろうとするのを『せっかくだからツリーを見ていこう』と誘ったのは本城だった。意外とロマンチストなところがある。

「うわ、やっぱすごいな。人だかりができてる」
「日曜ですからねぇ。でも、きれいですね。……本城さん、写真撮ってあげますよ」

 たまには本城をからかってやろうと、スマートフォンを取り出しわざと構えた。

「ばか、いらないよ」

 本城は右手をひらひらと振って、顔を背ける。こんな浮かれた写真を櫻井にでも見られたら、何を言われるか分かったもんじゃないだろう。

「遠慮せずに」
「ほら、ばか言ってないで行くぞ」
「あ、待って」

 ひと目見て気が済んだのか、調子に乗ってからかう奈津を小突いた本城はあっさりと踵を返す。そんな本城を追い掛けるように、2人は裏口へ回って行った。

 メルローズのクリスマスツリーが披露されるのは、毎年決まって12月1日だった。早ければハロウィンの翌日から飾るところに比べて遅れをとっているようにも思えるが、創業当初から続いている慣習を今も遵守しているらしい。

 お披露目の当日はテレビの取材が入っていて、奈津も今朝、情報番組で紹介されるのを見ていた。実物は、テレビで見たよりも豪華できれいだと思ったけれど……でもそれより、メルマリーに飾られているクリスマスツリーの方が好きだと、奈津は思った。

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