ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 先程のサロン事務所に比べると、宴会事務所は乱雑さが格段に違う。どうやら、女性スタッフが少ないようだ。
 事務所に足を踏み入れた柳田は、きょろきょろと辺りを見渡した。

「ええと……ああ、いたいた。増本くん、ちょっと──彼がうちのチーフキャプテンの増本です。増本くん、こちら来月から来てもらう、櫻井音楽事務所さん」

 増本は仕事の手を止めて、こちらへやって来た。今日、何度目かの自己紹介をすると、増本は軽く頷いた。

「──ああ。支配人から聞いてますよ、あの成瀬チーフが絶賛してる音響さんが来るって。よろしくお願いしますね」
「っ! ……」

 奈津の顔が、ひくりと引きつった。

「増本くん、今大丈夫かなぁ? 櫻井さんたち、ノアールに案内して欲しいんだけど」
「分かりました、ご案内します」
「では、櫻井さん。私はここで失礼しますね。今後ともよろしくお願いします」

 柳田はちらりと腕時計に目をやり、頭を下げた。

「こちらこそ、よろしくお願いします。今日はありがとうございました。高嶺支配人にも、よろしくお伝えください」

 櫻井が笑顔で頭を下げると、柳田は満足したように、にこにこと宴会事務所をあとにした。

「では、行きましょうか。ノアールは3階なんですよ。バックヤードのエレベーターは、こちらです」

 増本に案内されたノアールの部屋は思ったより広い会場で、奈津は少々圧倒された。メルマリーより、ひと回り、いやふた回り程広いだろうか。メルマリーは確か、最大で120名程と聞いていたから……

「150名、入れます。うちでもお勧めの部屋なんですよ。でも正直最近は50名前後の披露宴が多いので、逆に敬遠されてしまって……12月は確か、2件だけでしたよね? 出番が少なくて申し訳ないですね」

 にこっと白い歯を見せて笑うと、増本はとても人懐っこく見えた。成瀬と同じくらいの歳だろうか。初めに妙なプレッシャーを掛けられてつい軽く敵意を抱いてしまったが、この人となら、上手くやっていけるかもしれない。

 ここでもまたひとしきりの説明を受けたあと、今日は宴会も入っていないので好きに音響台を触って確認していいと言い残し、増本も自身の業務へと戻って行った。

「──じゃあ、私も先に出るから。しっかり、確認しておいてね」

 櫻井も一足先にホテルをあとにし、奈津は本城と2人、会場に残った。

「相川、12月、メルマリーと被ってないか?」
「あ、2回目が被っています……メルマリー4件あるんですけど、内1件が同じ日ですね」
「そうか。とりあえず、初回は一緒に入れるな。……なぁ、お前、成瀬さんとは上手くやれてるんだよな?」
「えっ!? あの……はい。特に問題ないと思ってますが……」
「そうか? それにしては何か、必要以上にハードル上げられてる気がするんだよなぁ」
「それは……思いましたけど……」
「まぁ、何かあるんなら、言ってくれよな」
「ありがとうございます。でも本当に、これといって何も……」

 今回の指名が成瀬の推薦ではないことを告げると少しややこしくなりそうだったので、悪いと思いながらも言わないことにした。

 本城の気遣いをありがたく思いながらも、奈津自身、何故こんなことになっているのか、不思議で仕方ないのだった。

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