ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

(あ、成瀬さんからメッセージきてる)

 打ち合わせが終わって新郎新婦を見送ったあと、奈津はポケットのスマートフォンを取り出した。ほんの、今しがたのメッセージだ。

『打ち合わせはどうだ? 俺は今終わった。通用口に向かう』
『僕も今、終わりました。向かいます』

 早速返信を打ちながら、奈津は顔が綻んだ。一緒に食事ができるのは、やっぱり嬉しい。今日は会えないと思っていたから、尚更だ。

(奢ってもらうのは悪いから、割り勘にしてもらおう)

 そんなことを考えながら通用口に向かっていると、後ろから成瀬が追いついて来た。

「ほら、一緒の時間になっただろう」

 大きな手が、奈津の頭をくしゃりと撫でる。

「お疲れ様です」

 奈津が振り返ってにこりと笑うと、つられるように成瀬もふわりと笑った。

 以前はどちらかというと表情の乏しい成瀬だったが、最近ではこんな風に笑うことが多くなった。それが自分に向けられていることが、恥ずかしくて、嬉しい。

「あの、新郎新婦はあれからどうでしたか? 怒ってたんじゃないですか?」

 気になっていたことを尋ねてみる。
 折角の晴れの日に、嫌な思い出なんて残して欲しくない。大野も、わざとした訳ではないと分かっているけれど、わざとでなければ何をしても許されるという訳でもない。

「ああ、心配掛けたな、大丈夫だったよ。俺が謝りに行ったら、かえって恐縮されたくらいだ。ケーキも当初の分は皆に食べてもらったし、本店から運んだ分も切り分けて箱に入れて、新婦の友人に持たせたからな」

 新婦は、『ホテルのケーキももらえて、トクしちゃった』と、笑って許してくれたそうだ。こんな大らかな新婦と結婚した新郎は、幸せになるに違いない。

「大野さんは……大丈夫なんですか?」

 こんなことを聞くのもおこがましいが、自分がもしあんな失敗をしたら、落ち込んで立ち直れないような気がする。自分だってまだ1年足らずの新人だ。他人事とは思えない。

「あいつは打たれ強いんだよ。さすがに今回はこたえてたけどな。あんまり萎れてるもんだから、謝りに行ったのに、新婦に『これからもがんばってください』って逆に励まされてた」

 成瀬は苦笑しながら、通用口の扉を開けて、奈津を先に通してくれた。レディファーストのようなさり気ない扱いが気恥ずかしくて、奈津は小走りで外へ出る。

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