ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 新婦は幼稚園の先生で、とても優しそうな人だった。

 職業柄か細々としたものを作るのが好きらしく、会場は手作りアイテムに溢れていた。各テーブルの名前札も手書きで、全員にひとことメッセージが添えてある。受付には手作りのクマのウェルカムドールとたくさんの折り鶴、そしてこれもまた手作りのウェルカムボードがイーゼルに立て掛け飾られていた。

 立体的な花飾りで周囲を囲み、『Happy Wedding  Takumi & Rina』と書かれた可愛いウェルカムボードは、新婦が紙粘土で丹念に作成したものだった。

 メルマリーでは、このようなグッズは受け付けが終わったら入場前に会場内へ移して飾るのだが、今日は大野の余裕がなかったらしく乾杯後の歓談中にグッズの移動をしていた。

 歓談に入り手が空いた奈津は、折り鶴がたくさんあったことを思い出し、少し手伝おうかとロビーに出た。大野はちょうど、ウェルカムボードを手に取ったところだった。

 大野はウェルカムボードを持ったものの、やっぱり違うものから運ぼうと思ったのか、テーブルの上にそのボードを無造作にポンと置いた。……と、紙粘土が乾いた状態のウェルカムボードは、見事に真ん中からパキリと割れた。

『っ!!』

 大野の、声にならない心の叫びが聞こえた。

『………』

 一部始終を目撃した奈津は、泣きそうな顔をした大野と目が合った。大野は肩を落として新婦に謝りに行き、しばらくしてしおしおと戻って来た。

『いつか割れると思ってたから、気にしないでくださいって言われたよ』

 別に報告してもらうようなことでもないのだが、大野にしてみれば自分より前から働いている奈津に対して先輩のような意識があるのかもしれない。そういうところは律儀で、決して悪い人ではないのだが。

 新婦手作りのウェルカムボードは、それから飾られることもなく、ひっそりと片付けられたのだった。

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