ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 今日は金曜日で、珍しく平日の披露宴だった。

 成瀬は、ホテル・メルローズの会議に呼ばれていて不在だった。サブキャプテンの里崎は、かなり前から有給を申請していたらしく予定通りに休みを取り、キャプテンは大野に任されることになった。

 といっても、何もこれが初めてなどではなく、これまでに何度もキャプテン業務には就いている。ただ、いつもは成瀬が里崎がそれとなくフォローしているが、当日はその両方がいないというだけだ。

『何もないといいんだが……お前にも迷惑掛けるかもしれんが、よろしく頼む』

 いつになく不安そうな成瀬だったが、その予感は見事に的中したと言える。こんなにトラブル続きの披露宴は、奈津は初めてだった。

 大野は、出だしからつまづいた。

 長方形型の披露宴会場は、縦方向の正面にメイン席が設けられ、その反対側が入場口になっている。入場口側には扉が2ヶ所あり、メイン席から向かって左側の扉から新郎新婦は入場することが多かった。

 室内側の入場扉前は広めのスペースがとられていて、そこで2人は立ち止まり、その姿を披露する。右側の扉付近は出席人数に応じて席が設けられることもあり、あらかじめ鍵を掛けて開かないようにしているのが常だった。

 今日も出席者多数のため、右側の扉付近は新郎側の親族席が設置されている。

 大野は、右側扉の鍵を掛け忘れた。

 ゲストが全員披露宴会場に入り入場口が一旦閉められ、ロビーには新郎新婦と大野、しばらくして扉を開ける配膳スタッフの女の子2人がやって来た。平日の披露宴だったこともあり、間が悪いことに配膳スタッフはホテルからのヘルプの子で、メルマリーの披露宴は見たことがなく、キャプテンに言われるままスタンバイをした。

 大野は新郎新婦に入場の流れを説明し、扉の前でその時を待った。

『それでは後方、扉口をご覧ください。新郎新婦、ご入場です!』

 会場内の全員が見守る中、司会者の一際明るい声に、虚をついて向かって右側の扉が勢いよく開いた。

 スポット係をしていたスタッフは思い掛けない扉が開いたので、慌ててぐるんっとスポットを右側に振った。

 自分の真後ろの扉が急に開いてびっくりした新郎の母は、続けて向けられたスポットの強烈な光に視界を奪われ、危うく椅子から転げ落ちそうになったところを隣に座っていた新郎の兄がかろうじて抱きとめた。

 扉が開いた瞬間に大野は『しまった』という顔をしたが、開けてしまったものは仕方がない。新郎の親族たちはガタガタと椅子を移動して通り道を作り、新郎新婦は申し訳なさそうに隙間を通って入るという、何とも無様な入場シーンになってしまった。

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