ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 ガラン! ガッシャーン!! ガラガラン!

「なっ、何!?」

 突然鳴り響いた、金属が落ちたようなけたたましい物音に、相川奈津は手にしていたCDケースを危うく取り落としそうになった。

 和やかに歓談をしていたゲストハウス・メルマリーの披露宴会場が一瞬にして、しん、と水を打ったように静まり返る。と、会場内にいたスタッフたちが足を止めて一斉に『大変失礼いたしました』と近くのテーブルに向かって頭を下げた。

 しばらくすると、またざわざわと和やかなざわめきが戻ってきた。

「何か落としたよねー、大丈夫かな」
「結構固くて大きい物、落ちたよな」
「てかさ、さっきもグラスか何か割れる音してたよね」
「どんくさい奴がいるんじゃねーの? ははは」

 物音が聞こえてきたのはバックヤード、厨房の方からだった。そこから一番遠い筈の会場隅の音響台にいる奈津にさえはっきりと聞こえたのだから、相当大きな音だったに違いない。

(今度は何があったんだろう……)

 奈津は近くにいた馴染みのカメラマンの木嶋と目配せをして、肩を竦めた。

 今日の披露宴は、トラブル続きだった。そのトラブルの大半の原因は、キャプテンの大野にあった。

 会場の責任者となるキャプテン業務に就く社員は、何人か存在する。メルマリーでは、オープン当初から在籍しているチーフキャプテン成瀬とサブキャプテン里崎を主軸に、母体であるホテルメルローズから常に何人かが出向という形でキャプテン業務に就いていた。

『ようは研修だよ。自分とこでやってくれりゃいいのにな。たまにひでえの押し付けてくるから、たまらない』

 そんな話を、奈津は以前に成瀬から聞いたことがあった。

 今日のキャプテン大野のことも、実は事前に聞いていた。大野は今年の夏頃にホテル・メルローズから出向してきた社員で、ホテルでは営業部や購買部などを転々としてきたらしい。

 ブライダルは、本人が希望したと聞く。

『間が悪いっていうか、要領が悪いっていうか……天然だな。悪い意味で』

 バッサリ切り捨てられる大野は、確か成瀬より年上の30歳だった筈だ。何度か仕事を共にした彼は、いつもそわそわと落ち着きがなく、とてもそうは見えないが。

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