ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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(ん、喉が渇いた……)

 奈津はゆっくりと体を起こし、サイドテーブルに置いてあったペットボトルの水を取った。少ししか残っていなかった中身を、ごくごくと飲み干す。

「……眠れないのか?」

 パジャマの裾をつんと引っ張られて振り向くと、成瀬が薄く目を開けてこちらを見上げていた。

 付き合い出した頃、何かの折に家ではパジャマを着ると言ったら、次に来た時にはもう用意されてあった。着心地の良いこのパジャマは、洗い替え用も数枚ある。今日は自分でパジャマを着た記憶がないので、成瀬が着せてくれたのだろう。成瀬はというと、これも着心地重視の薄生地のスウェットを愛用している。

「起こしちゃって、すみません。喉が渇いて……」
「そうか。俺もひと口、もらっていいか?」

 成瀬も体を起こし、奈津の持っているペットボトルに手を伸ばした。

「あ、全部飲んじゃったんで……すみません、冷蔵庫から取ってきます」

 慌ててベッドから降りようとする奈津の腕を、成瀬がやんわりと掴む。

「ああ、行かなくていい。……こっちから、もらう」

 そのまま体を引き寄せられ、唇が重ねられる。ぬるりと入り込んだ熱い舌が動き回り、口腔内に残った水分を舐め取ってゆく。水を含んで口が冷えていたせいか、その舌はいつもより熱っぽく感じた。

「お前の口の中、冷たくて気持ちいいな」

 成瀬の両手が奈津の頭を抱えたまま、ゆっくりとベッドに押し倒した。柔らかい枕が、2人分の頭の重みで沈む。

「ん……」

 口腔内をひとしきり蹂躙した舌の温度に奈津の舌が馴染んできた頃、唇はそっと離れていった。

「向こうむいて」

 奈津は、成瀬に背を向けるように横を向いた。

 成瀬の左腕が奈津の首の下を通って、抱きしめるように曲げられる。背中に密着した体は熱く、その右腕も奈津を抱きすくめる。右足がごそごそと奈津の足に絡められ定位置を見つけて落ち着くと、ふぅっと小さなため息が聞こえた。

 成瀬は眠る時、よくこんな風に奈津を抱きしめた。力加減は苦しくなく、奈津は抱き枕のように、されるがままになっている。

 いつも職場では強気なことを言っている彼が、こんな風に自分にくっついて寝たがることが子供っぽくて可愛くて、それが何だか嬉しかった。

 成瀬は、眠っていても無意識に抱きついてくることがよくある。意外と、甘えたがりなのかもしれない。

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