ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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79 ブルームーン・ラプソディー

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          ◆

「ん……」

 ふいに後ろから抱きすくめられたような感覚に、相川奈津は目を覚ました。
 何だか、とてもよく眠った気がする。

(……えっと)

 熟睡していたのだろう、ここがどこか一瞬分からない。部屋が暗いから、まだ夜中だ。
 ──と、背後からスースーと規則正しい寝息が聞こえてきた。

(ああ、そうだった)

 枕元の時計を見上げると、午前2時を少しまわっている。

 おそらく無意識に自分に回されたであろう腕をそっと持ち上げてゆっくりと寝返りを打ち、隣で静かな寝息を立てている男の顔を覗き込んだ。──よく眠っている。

(……きれいな顔)

 自分と同じ男とは思えない程に見惚れてしまいそうになる端正な顔をしたこの彼は、成瀬真一、28歳。3つ上の、奈津のれっきとした恋人だ。

 時折眩しそうに自分を見つめる榛色の瞳は今はぴったりと閉じられており、ともすれば冷たそうにも見える薄い唇は、ほんのりと開かれていて無防備だ。人差し指でそっと触れてみると、柔らかくて熱っぽく、しっとりとした弾力があり、見た目をあっさり裏切られる。

 ほんの数時間前、この唇は奈津の体の隅々を這い回り、侵食し、その確かな痕跡をあちこちに残していった。

(………)

 先程の行為を思い出し、思わず顔が熱くなる。

 櫻井音楽事務所に勤める奈津が、ゲストハウス・メルマリーの披露宴の音響に入るようになったのは、今年の3月の初めだった。

 成瀬はそこのチーフキャプテンであり、実質メルマリーの責任者という立場を任されている。元々は母体であるホテル・メルローズのブライダル部門に在籍してところを、2年半前、メルマリー設立と同時に異動してきた。以来、彼は着実に業績を伸ばし、確固たる実績を積んできている。

 とても厳しく、時に辛辣な物言いをする彼は、とかく酷薄な印象を持たれがちだが、実際には情が深く感情豊かであることを奈津は知っている。

 真摯に仕事に取り組む姿に、いつしか芽生えた強い憧憬がようやく恋だと気付いた頃、思い掛けず想いを告げられ付き合うようになったのが、6月終わりのことだった。

 こうして仕事終わりの週末の夜を共に過ごすことも習慣になり、自分に向けられた愛情が気恥ずかしくも心地良くて、あっという間に5ヶ月が過ぎた。

 来月は、クリスマスだ。

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