ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 電話を切ると、相川がバスルームから出てきた。すっかり落ち着いたようで、冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を取り出して飲んでいる。

 ピロン、と、今置いたばかりの薫のスマートフォンがメッセージを受信した。今話していた、姉からだ。届いたメッセージを開いて見た薫は、懐かしい気持ちで一杯になった。

「相川、お前に似てる俺の弟、見るか?」
「え! 見たいです、見せて見せて」

 嬉しそうに近付いてきた相川に、たった今送られてきたスマートフォンの画像を見せる。

「えー、どんな人……って、犬じゃないですか!」

 薫の見せた画面を覗き込んだ相川が、抗議の声を上げた。
 そこには、茶色い毛並みとつぶらな黒い瞳の賢そうな犬が、こちらをじっと見つめていた。

「犬の、ソラだよ」
「酷いですよ、もう。可愛いいけど」

 相川が、ぷりぷりと怒る。

 昨夜は、ソラをたくさん撫でた気がする。それがいつから相川に替わっていたのかは、覚えていない。

「僕、そろそろ行かないと。昨夜はごちそうさまでした」

 薫は公休日なのだが、相川は事務所の出勤日だ。

「こちらこそ。世話になったな」
「結局、何もなくて良かったですね」

 昨夜のことは、相川は何も気付いていない。いや、薫自身も、どこまでが現実でどこからが夢なのか、よく分かっていないのだ。

「Gホテルはあと1日、何もないことを祈りますよ」
「そうだな。ま、大丈夫だろう」

 手早く支度を済ませた相川を、玄関まで見送る。扉を開けると、今日も蝉のにぎやかな鳴き声が流れ込んできたのだった。

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