ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 デザートに、相川が買ってきてくれたゼリーをつつきながら、薫はGホテルでの出来事をかいつまんで話した。

「俺は霊感なんて全くないと思ってたんだけど、さすがにちょっと気持ち悪くて……悪いな、来てもらって」
「いえ、それは怖いですって。さすが、Gホテル」
「まぁ、あと1回だけだから、何とかなるだろ。……ビールでも飲むか?」

 心なしか顔色が悪くなった相川に、酒を勧めてみる。何度かうちに来ている相川だが、酒を飲むのは泊まる時だけだ。相川はその意図に気付いたようで、にこりと笑った。

「いただきます。初めから今日は、泊まるつもりでしたから」
「悪い、助かる」

 初めから体調の悪そうな自分を気遣って泊まるつもりだったと言う相川に、薫は眉を下げた。

 それからは、Gホテルのことにはあえて触れず、他愛のない話に花を咲かせた。

 相川に任せているゲストハウス・メルマリーでは、順調に勤務できているらしい。あそこのキャプテンの成瀬は相当に気難しいのだが、相川が上手く立ち回ってくれているので、ありがたい。最近入ったという新しいキャプテンが信じられないくらいどんくさいのだと、笑いながら話してくれた。

 いつもより早いペースで、ビールの空き缶が並ぶ。こういう時は、もう酔って寝てしまうに限ると、暗黙の了解だった。

「そろそろ、寝るか」

 日付が変わりそうな頃、何度目かの相川の欠伸に、薫が腰を上げた。

 就寝時は、寝室の薫のベッドの隣に来客用の布団を敷いて、相川にはそこで休んでもらっている。布団の上であぐらをかいた相川が、眠そうに薫を見上げた。

「じゃあ、おやすみなさい、本城さん」

 欠伸と酒の影響で潤んだ大きな黒い瞳が、くりくりと動いた。

「ああ、今日はありがとう……って、お前さ」
「え?」
「相川、お前さ。誰かに似てると思ったら、弟と似てるんだよ」

 くすくすと笑う薫も、酒が程よく回っている。

「弟? 本城さん、弟いるんですか?」
「ああ。その目が、特にそっくりだ」
「へぇーそうなんだ。何か、嬉しい」

 へらりと笑う相川の頭を、ベッドから乗り出した薫の手がわしゃわしゃと撫でる。
 力が抜けたように、撫でられるままぐらぐらと揺れた相川が、そのままぽすんと横になった。

「んー。じゃあ、おやすみなさい、お兄ちゃん」
「はは。おやすみ」

 薫もドサリと横になった。
 ごろりと横を向くと、あっさりと睡魔に飲み込まれ、あっという間に眠りについた。

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