ブライダル・ラプソディー

葉月凛

文字の大きさ
上 下
70 / 160

70

しおりを挟む
「……誰に、聞いたのですか?」

 薫は、しまった、と思った。
 これはやはり、ひなのの一存で声を掛けたのだろう。ここでひなのの名前を出すと、彼女の立場が悪くなるのではないか。

「ええと……配膳の、アルバイトの方でしたが……」

 口籠もる薫に、原田が披露宴会場を見渡した。

「この中に、いますか?」

 披露宴会場には、後片付けをしているスタッフが数人いたが、ひなのの姿はなかった。

「あ、いえ、この中にはいませんが」

 原田の眉間に、皺が寄った。
 何かを堪えるようにしばらく俯き、顔を上げる。

「今日出勤している配膳の人間は、これで全員です。誰に、聞いたのですか?」
「え? あの……」

 薫は、観念したように、肩を竦めた。

「……誘っていただいたのは、坂下さんです。すみません、勝手に話を伺ってしまったようで、その」
「本城さん、ちょっと」

 原田が話を遮り、薫の腕を引いた。
 バックヤードに入ると、自身のポケットからスマートフォンを取り出し、何やら操作して、薫に画面を見せる。

「……この子、ですか?」

 そこには、この披露宴会場で撮ったのだろう、スタッフ数人が仲良く笑い合っている写真が映し出されており、その中央にひなのがいた。

「あ、そうです。坂下さんです、真ん中の」

 ひなのを差しながら、薫が頷く。口元のホクロは、間違えようがない。

「……本当に?」
「え? そうですけど、あの」
「……そうですか。そうですね、本城さんが、嘘をつく理由もない」

 原田はスマートフォンをポケットにしまうと、小さく息を吐いた。

「坂下はうちにいた子ですが、去年、事故で亡くなっています。ちょうど今頃の時期で、皆で海に行く筈だった日の、前日でした」

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...