ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「……誰に、聞いたのですか?」

 薫は、しまった、と思った。
 これはやはり、ひなのの一存で声を掛けたのだろう。ここでひなのの名前を出すと、彼女の立場が悪くなるのではないか。

「ええと……配膳の、アルバイトの方でしたが……」

 口籠もる薫に、原田が披露宴会場を見渡した。

「この中に、いますか?」

 披露宴会場には、後片付けをしているスタッフが数人いたが、ひなのの姿はなかった。

「あ、いえ、この中にはいませんが」

 原田の眉間に、皺が寄った。
 何かを堪えるようにしばらく俯き、顔を上げる。

「今日出勤している配膳の人間は、これで全員です。誰に、聞いたのですか?」
「え? あの……」

 薫は、観念したように、肩を竦めた。

「……誘っていただいたのは、坂下さんです。すみません、勝手に話を伺ってしまったようで、その」
「本城さん、ちょっと」

 原田が話を遮り、薫の腕を引いた。
 バックヤードに入ると、自身のポケットからスマートフォンを取り出し、何やら操作して、薫に画面を見せる。

「……この子、ですか?」

 そこには、この披露宴会場で撮ったのだろう、スタッフ数人が仲良く笑い合っている写真が映し出されており、その中央にひなのがいた。

「あ、そうです。坂下さんです、真ん中の」

 ひなのを差しながら、薫が頷く。口元のホクロは、間違えようがない。

「……本当に?」
「え? そうですけど、あの」
「……そうですか。そうですね、本城さんが、嘘をつく理由もない」

 原田はスマートフォンをポケットにしまうと、小さく息を吐いた。

「坂下はうちにいた子ですが、去年、事故で亡くなっています。ちょうど今頃の時期で、皆で海に行く筈だった日の、前日でした」

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