ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

「あ! 本城さん、おはようございます!」
「坂下さん。おはようございます」

 今日こそ一番乗りかと思ったが、ひなのの方が早かった。いや、装花も終わっているから、花屋が先にひと仕事終えているようだ。淡いグリーンのテーブルクロスに、卓上の花器に盛られたヒマワリが華やかに映えていた。

 そのヒマワリに笑みを零していそいそと近付いてきたひなのが、嬉しそうに音響台に身を乗り出す。

「あのね、来週、ここの皆で海に行くんですよ! 本城さんも一緒に行きませんか?」
「え? 来週って、お盆だよ? お盆に海に行くの?」
「平気ですよ! 砂浜でちょっと遊ぶだけだし、メインは花火とバーベキューなんです。ね、一緒に行きましょうよ」

 にこにこと話すひなのの、口元のホクロに目がいった。

「絶対、楽しいですって!」

 最近の子はずいぶん気さくなんだな、と薫は思った。しかし、仕事先のプライベートな集まりに、おいそれと参加できる筈もない。

「ホテルの人たちで行くんでしょう? 部外者の俺が行くのは、ちょっと……」
「部外者だなんて! そんなことないですよ」
「いや、でも……」

 ひと回りも年下の可愛い女の子に誘われて、正直嬉しくない訳はなく、薫はどうしたものかと眉を下げる。

「ね? 行きましょう」

 口元のホクロを軽く指で押さえたひなのに微笑まれ、薫は、これも仕事の一環として参加しようか、と思い始めた。依頼してきた音響会社に報告して、何なら電話してきたあの男も一緒に誘って、などと考え出す。

「そうだな……どこの海に行くの?」
「そうこなくっちゃ!」

 無邪気にぴょん、と跳ねるひなのを微笑ましく見る。

「えっとね、原田さんの車で行くんです! ここから2時間くらいかなぁ? 日本海のね……」
「っ!」

 嬉しそうに話すひなのの肩越しに、ゆらりと白い影が揺らめいた。
 音響台からは対角になるメイン席の、右の、奥。その影は、明らかに、こちらを見ている。……男の子だ。

「バーベキューのセットは、ホテルのを借りていくんです。材料は、行きしなに皆で買い出しに行って──」
「あ、あの」

 男の子が、ゆらりと動く。
 こちらに向かって一歩、近付いたように見えた。

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