ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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(………)

 バスルームを出て、ガシガシと頭を拭く。
 今日はGホテルに、ヘルプに入る日だ。昼過ぎの披露宴とはいえ、音響スタッフの会場入りは基本2時間前だし、そんなにゆっくりもしていられない。

 簡単な朝食をとり、仕事着にしているスーツに着替えて準備をしていると、電話がなった。見ると、また母からだ。

「──はい」
『ああ、薫? 昨日はほら、何かごめんね? もう余計なことは言わないから』
「……いいよ、もう」
『そう? それでね』

 くどくどと話す母の話は要約すると、今年は大きめな法事があるから、長男の薫にはぜひとも帰って来て欲しい、というものらしい。スケジュール的には帰れなくもないのだが、正直、めんどくさい。

「うーん……でも、仕事があるから。……いや、そうだけど」

 スピーカーフォンをオンにして、準備しつつのらりくらり躱していると、電話の向こうから子供と姉らしき声も聞こえた。どうやら、嫁に行った姉も子供と一緒にひと足早く帰省しているらしく、楽しそうな笑い声が聞こえる。

「あ、そうだ。弟はどうしてる? 元気にしてる?」

 夢に出てきたこともあり、何の気なしに聞いてみる。すると、あれ程しゃべっていた母が、一瞬黙った。

『……何だって?』
「え? 弟だよ。今いないの?」
『………。お姉ちゃん!』

 電話の向こうで、何やら慌てている様子が伝わる。しばらくして、久しぶりの姉の声が響いた。

『何、あんた何言ったの』
「姉ちゃん? 久しぶり。何って、別に? 弟は元気かって聞いただけだけど」
『……誰が元気だって?』
「だから……弟! 何だよ、もういいよ!」

 電話の向こうで、姉も一瞬黙った。

『……あんた、お盆はやっぱり帰って来なさい。疲れてんのよ、しばらくこっちでゆっくりすれば、』
「ああ、もういいもういい。これから仕事だから。切るよ」
『あっ、ちょっ、』

 まだ何か話していた姉を遮り、通話を終える。

「何だよ、全く!」

 声に出して悪態をつくと、薫は荷物を持って、家を出たのだった。

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