ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 ひなのは、無邪気に白い歯を見せた。

 口元に小さなホクロがある。肩上のボブヘアを揺らして人懐っこく笑う幼い表情に、口元のホクロだけ妙に色っぽくて、アンバランスだった。

「本城さん、一番乗りですよ! いつもこんなに早いんですか?」
「ああ、今日は久しぶりだったから、ちょっと早めに来たかな。そう言う坂下さんの方が早いんじゃないの?」
「そうなんだ。私はね、どんくさくてなかなか仕事についていけないから、早めに来てるんです。失敗ばっかりしちゃって、もう嫌になっちゃう」

 そう言うと、ひなのは眉を下げた。

「そうなの? しっかりしてそうに見えるけどなぁ。でも、ここの人は皆優しいから、大丈夫だよ」
「そうなんだけど……あっ、やばっ! サボってるの見つかっちゃう」
「え? ──っ!」

 ひなのが振り返った方向につられるように顔を向けて、薫は一瞬息を呑んだ。

 薫が通って来たバックヤードに、顔見知りのキャプテン、原田の姿が見えた。

 その彼から数メートル離れた、メイン席の右の奥、少し影になった隅に──男の子が立っている。

「……。じゃあ本城さん、またね!」
「あ、……ああ」

 ひなのは、パタパタとバックヤードに入って行く。入れ違いに原田がやって来た。

「本城さんじゃないですか! 久しぶりですねぇ、今日はよろしくお願いします」
「……原田さん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「最新の進行表、まだですよね? ちょっと変更が出てるんですよ、ええと」

 変更部分の説明をする原田越しにちらと目をやるが、男の子はもういなかった。

(見間違い……じゃなかった)

 確かに、見た。でも、

(聞いていたのと、違う)

 薫が見たのは、小学生ではなかった。と、思う。中学生か、もう少し上くらいだ。一瞬だったが、白っぽい服装をしてはいたと思う。
 見間違いや、勘違いではない。何故なら、

(あの大学生の女の子……坂下さんも、見てたよな)

 そう、ひなのも、一瞬そちらに目線を向けていたのだ。

 あとで聞いてみようと思っていたのだが、その後はバタバタと慌ただしく時間が過ぎてしまい、ひなのの姿は時々目に入っていたものの、話し掛けられずに終わってしまったのだった。

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