63 / 160
63
しおりを挟む
ひなのは、無邪気に白い歯を見せた。
口元に小さなホクロがある。肩上のボブヘアを揺らして人懐っこく笑う幼い表情に、口元のホクロだけ妙に色っぽくて、アンバランスだった。
「本城さん、一番乗りですよ! いつもこんなに早いんですか?」
「ああ、今日は久しぶりだったから、ちょっと早めに来たかな。そう言う坂下さんの方が早いんじゃないの?」
「そうなんだ。私はね、どんくさくてなかなか仕事についていけないから、早めに来てるんです。失敗ばっかりしちゃって、もう嫌になっちゃう」
そう言うと、ひなのは眉を下げた。
「そうなの? しっかりしてそうに見えるけどなぁ。でも、ここの人は皆優しいから、大丈夫だよ」
「そうなんだけど……あっ、やばっ! サボってるの見つかっちゃう」
「え? ──っ!」
ひなのが振り返った方向につられるように顔を向けて、薫は一瞬息を呑んだ。
薫が通って来たバックヤードに、顔見知りのキャプテン、原田の姿が見えた。
その彼から数メートル離れた、メイン席の右の奥、少し影になった隅に──男の子が立っている。
「……。じゃあ本城さん、またね!」
「あ、……ああ」
ひなのは、パタパタとバックヤードに入って行く。入れ違いに原田がやって来た。
「本城さんじゃないですか! 久しぶりですねぇ、今日はよろしくお願いします」
「……原田さん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「最新の進行表、まだですよね? ちょっと変更が出てるんですよ、ええと」
変更部分の説明をする原田越しにちらと目をやるが、男の子はもういなかった。
(見間違い……じゃなかった)
確かに、見た。でも、
(聞いていたのと、違う)
薫が見たのは、小学生ではなかった。と、思う。中学生か、もう少し上くらいだ。一瞬だったが、白っぽい服装をしてはいたと思う。
見間違いや、勘違いではない。何故なら、
(あの大学生の女の子……坂下さんも、見てたよな)
そう、ひなのも、一瞬そちらに目線を向けていたのだ。
あとで聞いてみようと思っていたのだが、その後はバタバタと慌ただしく時間が過ぎてしまい、ひなのの姿は時々目に入っていたものの、話し掛けられずに終わってしまったのだった。
口元に小さなホクロがある。肩上のボブヘアを揺らして人懐っこく笑う幼い表情に、口元のホクロだけ妙に色っぽくて、アンバランスだった。
「本城さん、一番乗りですよ! いつもこんなに早いんですか?」
「ああ、今日は久しぶりだったから、ちょっと早めに来たかな。そう言う坂下さんの方が早いんじゃないの?」
「そうなんだ。私はね、どんくさくてなかなか仕事についていけないから、早めに来てるんです。失敗ばっかりしちゃって、もう嫌になっちゃう」
そう言うと、ひなのは眉を下げた。
「そうなの? しっかりしてそうに見えるけどなぁ。でも、ここの人は皆優しいから、大丈夫だよ」
「そうなんだけど……あっ、やばっ! サボってるの見つかっちゃう」
「え? ──っ!」
ひなのが振り返った方向につられるように顔を向けて、薫は一瞬息を呑んだ。
薫が通って来たバックヤードに、顔見知りのキャプテン、原田の姿が見えた。
その彼から数メートル離れた、メイン席の右の奥、少し影になった隅に──男の子が立っている。
「……。じゃあ本城さん、またね!」
「あ、……ああ」
ひなのは、パタパタとバックヤードに入って行く。入れ違いに原田がやって来た。
「本城さんじゃないですか! 久しぶりですねぇ、今日はよろしくお願いします」
「……原田さん。こちらこそ、よろしくお願いします」
「最新の進行表、まだですよね? ちょっと変更が出てるんですよ、ええと」
変更部分の説明をする原田越しにちらと目をやるが、男の子はもういなかった。
(見間違い……じゃなかった)
確かに、見た。でも、
(聞いていたのと、違う)
薫が見たのは、小学生ではなかった。と、思う。中学生か、もう少し上くらいだ。一瞬だったが、白っぽい服装をしてはいたと思う。
見間違いや、勘違いではない。何故なら、
(あの大学生の女の子……坂下さんも、見てたよな)
そう、ひなのも、一瞬そちらに目線を向けていたのだ。
あとで聞いてみようと思っていたのだが、その後はバタバタと慌ただしく時間が過ぎてしまい、ひなのの姿は時々目に入っていたものの、話し掛けられずに終わってしまったのだった。
0
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説




百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる