ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 ──Gホテル。
 この界隈では、ちょっと有名なホテルだ。

 ホテルとしては、それ程大きい規模ではない。築年数もそこそこ経っているが、何度か改装を施していて、内外観共にきれいだ。駅から少し距離があるが、シャトルバスが頻繁に運行していて利用客もそれなりに多い。

 最近ではブライダルに力を入れていて、晴れた日にはきれいな庭で行えるガーデン挙式が人気らしい。

 ただ、あそこは……『出る』のだ。

 あのホテルに出入りしている業者の間では有名な話で、どうやら新人1年目の相川の耳にも入っているらしい。

 薫は、小さくため息をついた。

「まぁ、俺は霊感なんて全くないし。前に入った時も何もなかったからな。それに、出るって噂のある部屋はひと部屋だけだろ。確か……」
「あ、メールが来ました」

 相川が、たった今届いたメールに目を向けた。ヘルプを依頼してきた音響会社かららしく、添付資料をカチカチと開く。

「ええと、ヘルプに入る部屋は……ガーデンルーム」
「………」

 相川が、気の毒そうに振り返った。

『出る』と噂がある部屋は、庭に面したガーデンルームだ。
 片側がガラス張りで広めの披露宴会場の、メイン席奥の隅。スタッフが披露宴前に準備をしていると、その隅に、いるそうだ。……男の子が。

 小学生くらいで、白い半袖シャツに黒っぽい短パンを穿いているらしい。何をする訳でもないそうだが、そこに立っているのは分かるらしく、何人もの人が遭遇している。特に、早くに会場入りする花屋や音響スタッフに、目撃者が多い。

 薫は実際に見たことはないのだが、以前、その子を見たという人にどんな表情をしているのか聞いたところ、『そんなの見れる訳ないじゃん!』と一蹴された。気付いても、気付いていないふりをするのが精一杯らしい。

 そして、その子が現れた日はハウリングが起こりやすく、機材トラブルが多発する。音響的には、厄介な存在だとも言える。

「平気だよ、俺はそういうの信じてないから」

 全く怖くないと言えば嘘になるが、元来、気にしない質であるのは事実だ。

「本城さん……がんばってください」

 自分では力になれない、と相川は神妙に頷いた。

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