ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 上がり切った息はなかなか落ち着かず、しばらくの間、奈津の胸は大きく上下に波打った。その様子をじっと見下ろしていた成瀬は、おもむろに奈津の体の上に散った液体を掬い取り、弛緩した足の間にするりと指を滑らせた。

「あっ、」

 片足を持ち上げ、簡単に後方の蕾を探り当てる。他人になど触られたことのない場所にぬるぬると体液を塗り込められて、奈津は一気に熱が冷めていった。

「あ、あのっ、成瀬さん、そこは……」

 狼狽える奈津にお構いなしに、ぷつりと指の先端が埋められる。

「いっ、いた……」
「奈津、力抜け」

 入り込んだ指先が、くにくにと奇妙に動く。その何とも言えない気持ちの悪さに、奈津は泣きそうになった。

「成瀬、さん……あの……」
「そんな怯えた顔をするな。そそる」
「………」

 ──今、そそるって、言ったのか?

 言いようのない恐怖が、奈津を襲う。
 自分だけ気持ち良くしてもらってこれで終わりにしようなんて、虫が良すぎることは分かっている。でも……でも、これ以上進む勇気は、まだ奈津にはなかった。

 ないことが、今、分かった。

 ……自分にしてもらったのと同じことを成瀬にしてあげることで、許してもらえないだろうか。それなら、自分にもできる。……ような、気がする。

 奈津がそんなことを考えている間にも、成瀬の指は、奈津の中で蠢いた。少しずつ、深く差し入れてくる。成瀬の指は、長い。

「いっ、痛っ。成瀬さん、やめ……っ」

 涙目になりながら、必死に訴える。

「力抜けって。大丈夫だから」

 ぜんぜん、大丈夫ではない。

「あ、あのっ! 僕がっ……してあげますっ。だっ、だから、もう」

 奈津は、叫ぶように言い縋った。指の動きが、ぴたりと止まる。

「何をしてくれるって?」
「あの、だから……さっき、僕にしてくれた……こと、を」
「へぇ。それは魅力的な申し出だな。でも、次でいい」

 成瀬が目を細めて口端を上げる。指が、ずるりと引き抜かれた。
 奈津は、詰めていた息を吐く。

 ぎしりとベッドが軋み、成瀬は体をずらして横のサイドテーブルの引き出しからボトルタイプの容器を取り出した。透明の液体を、たらりと手のひらに取っている。

「っ、」

 奈津は、血の気が引いた。
 それが何の用途に使うものかくらい、さすがに分かる。

 成瀬は、本気で自分を抱く気だ。男同士のセックスとは──そういうことだ。

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