ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 成瀬の、分かりやすい説明は続く。

「希望者には会社から支給されるんだよ。指輪してる方が親御さんの安心感も違うしな。皆、知ってると思ってたが」

 いや、初めて聞いた。
 本城は知っていたのだろうか。何故教えといてくれなかったのかと、何とも理不尽な気持ちが疼く。

 というか……ちょっと待て。これはもしかして、自分の勘違いなのか?

 結婚しているかどうか、どうして誰にも聞かなかったのだろう。いや、聞くまでもなく思い込んでいたのだ。これは、この状況は……かなり恥ずかしいのではないだろうか。

 じわじわと羞恥が込み上げ、目がおろおろと泳ぐ。

 成瀬は自身の頭をガシガシとかいた。

「はぁーっ、何だよ! そういうことだったのか」

 大仰なため息をつく成瀬に、奈津はびくりとして小さくなった。

「お前、俺が結婚してるのに、不貞を働こうとしてるって思ってたのか」
「すっ、すみません」
「じゃあ何、俺がそういうことする人間だと思ってたってことか」
「いえっ、それは……」

 ──思ってた。

 奈津は恥ずかしさのあまり、顔から火を吹いているのではないかと思った。穴を掘って、すっぽりと埋まってしまいたい。

「そんな誤解をしていたなんて、全く気付かなかったな。……そうか」
「っ、」
「俺はてっきりお前が、男に抵抗があるんだと思ってたよ」
「そっ、それは……ないと言えば嘘になります、けど……」
「だから、時間を掛けようと思っていたんだけどな。お前見てるとだめなんだよ。うまくいかない」

 成瀬の声色から、ふと力が抜けた気がした。

「それで? 俺は結婚していない。晴れて独身だな。……俺のこと、どう思ってるんだ?」

 優しく甘さを含んだ声に、思わず顔を上げる。

「……僕、は……」
「僕は?」
「あの……その……」

 自分の中で渦巻く羞恥を堪えながら、奈津は言い淀んでしまった。何気に、酷いことを言ってしまった自覚がある。盛大に空回った挙句、謂れのない言い掛かりをつけてしまったような、申し訳ない気持ちにもなる。

「……え、と……」

 成瀬はそんな奈津をしばらく見つめると、ふっと息を吐いた。

「──お前、割と強情だよな」
「っ、」

 目を細めた成瀬の口端が、ゆるく引き上げられた。

「時間切れだ。もう、聞いてやらない」

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