45 / 160
45
しおりを挟む
成瀬の、分かりやすい説明は続く。
「希望者には会社から支給されるんだよ。指輪してる方が親御さんの安心感も違うしな。皆、知ってると思ってたが」
いや、初めて聞いた。
本城は知っていたのだろうか。何故教えといてくれなかったのかと、何とも理不尽な気持ちが疼く。
というか……ちょっと待て。これはもしかして、自分の勘違いなのか?
結婚しているかどうか、どうして誰にも聞かなかったのだろう。いや、聞くまでもなく思い込んでいたのだ。これは、この状況は……かなり恥ずかしいのではないだろうか。
じわじわと羞恥が込み上げ、目がおろおろと泳ぐ。
成瀬は自身の頭をガシガシとかいた。
「はぁーっ、何だよ! そういうことだったのか」
大仰なため息をつく成瀬に、奈津はびくりとして小さくなった。
「お前、俺が結婚してるのに、不貞を働こうとしてるって思ってたのか」
「すっ、すみません」
「じゃあ何、俺がそういうことする人間だと思ってたってことか」
「いえっ、それは……」
──思ってた。
奈津は恥ずかしさのあまり、顔から火を吹いているのではないかと思った。穴を掘って、すっぽりと埋まってしまいたい。
「そんな誤解をしていたなんて、全く気付かなかったな。……そうか」
「っ、」
「俺はてっきりお前が、男に抵抗があるんだと思ってたよ」
「そっ、それは……ないと言えば嘘になります、けど……」
「だから、時間を掛けようと思っていたんだけどな。お前見てるとだめなんだよ。うまくいかない」
成瀬の声色から、ふと力が抜けた気がした。
「それで? 俺は結婚していない。晴れて独身だな。……俺のこと、どう思ってるんだ?」
優しく甘さを含んだ声に、思わず顔を上げる。
「……僕、は……」
「僕は?」
「あの……その……」
自分の中で渦巻く羞恥を堪えながら、奈津は言い淀んでしまった。何気に、酷いことを言ってしまった自覚がある。盛大に空回った挙句、謂れのない言い掛かりをつけてしまったような、申し訳ない気持ちにもなる。
「……え、と……」
成瀬はそんな奈津をしばらく見つめると、ふっと息を吐いた。
「──お前、割と強情だよな」
「っ、」
目を細めた成瀬の口端が、ゆるく引き上げられた。
「時間切れだ。もう、聞いてやらない」
「希望者には会社から支給されるんだよ。指輪してる方が親御さんの安心感も違うしな。皆、知ってると思ってたが」
いや、初めて聞いた。
本城は知っていたのだろうか。何故教えといてくれなかったのかと、何とも理不尽な気持ちが疼く。
というか……ちょっと待て。これはもしかして、自分の勘違いなのか?
結婚しているかどうか、どうして誰にも聞かなかったのだろう。いや、聞くまでもなく思い込んでいたのだ。これは、この状況は……かなり恥ずかしいのではないだろうか。
じわじわと羞恥が込み上げ、目がおろおろと泳ぐ。
成瀬は自身の頭をガシガシとかいた。
「はぁーっ、何だよ! そういうことだったのか」
大仰なため息をつく成瀬に、奈津はびくりとして小さくなった。
「お前、俺が結婚してるのに、不貞を働こうとしてるって思ってたのか」
「すっ、すみません」
「じゃあ何、俺がそういうことする人間だと思ってたってことか」
「いえっ、それは……」
──思ってた。
奈津は恥ずかしさのあまり、顔から火を吹いているのではないかと思った。穴を掘って、すっぽりと埋まってしまいたい。
「そんな誤解をしていたなんて、全く気付かなかったな。……そうか」
「っ、」
「俺はてっきりお前が、男に抵抗があるんだと思ってたよ」
「そっ、それは……ないと言えば嘘になります、けど……」
「だから、時間を掛けようと思っていたんだけどな。お前見てるとだめなんだよ。うまくいかない」
成瀬の声色から、ふと力が抜けた気がした。
「それで? 俺は結婚していない。晴れて独身だな。……俺のこと、どう思ってるんだ?」
優しく甘さを含んだ声に、思わず顔を上げる。
「……僕、は……」
「僕は?」
「あの……その……」
自分の中で渦巻く羞恥を堪えながら、奈津は言い淀んでしまった。何気に、酷いことを言ってしまった自覚がある。盛大に空回った挙句、謂れのない言い掛かりをつけてしまったような、申し訳ない気持ちにもなる。
「……え、と……」
成瀬はそんな奈津をしばらく見つめると、ふっと息を吐いた。
「──お前、割と強情だよな」
「っ、」
目を細めた成瀬の口端が、ゆるく引き上げられた。
「時間切れだ。もう、聞いてやらない」
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説




百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる