ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「打ち上げ……来られたんですね」
「ああ、割と早く体が空いたからな」

 里崎は、成瀬は打ち上げに来ないと言っていたが、状況が変わったようだ。

「タクシーに乗せて送って行こうと思ったんだが、お前、家言わねぇし。仕方ないから、うちに連れて来たんだよ。悪かったな」
「いえ、こちらこそ……あの、ご迷惑、お掛けしました」

 そう言われると、申し訳なくなる。これは、あきらかに自分が悪い。
 とはいえ、この状況は、まずい。……ような、気がする。

「あ、あの、夜分にお邪魔しました。もう帰りますので」

 言いながら、奈津はベッドから降りようとして、下半身に妙な違和感を覚えて──固まった。

 スラックスを穿いていない。

 慌てて手を差し込み確認すると、下着は着けていて、ほっとした。上半身はシャツを着ていたが、ボタンがかなり開けられている。

「ああ、スーツは皺になるといけないと思って、脱がせた。いけなかったか?」
「いえ……そ……」

 ベッドから出にくい自分の状況に狼狽えていると、成瀬はゆっくりと体の向きを変え、奈津の近くに手をついた。

「いいから、今日は泊まっていけ。もう遅いしな」

 石鹸の香りが、鼻をくすぐる。

「何。まだ、ぼんやりするのか?」

 ほんのりと上気した熱が近づいてきた。端正な顔に掛かった、濡れた髪が艶かしい。

「あの、成瀬さ……離れて……」
「もう嫌がるな。……頼むから」

 奈津は、ふわりと抱きしめられた。

「………」

 そのまま覆い被さるように優しく押し倒され、柔らかい枕に再び頭が沈んだ。薄いシャツ越しに伝わる肌の熱さに、動けなくなる。

「奈津」

 奈津の首筋に顔を埋めた声は、くぐもっていた。

「──お前が、好きだ。この前、ちゃんと言えなかったからな」

 そう言うと、抱きしめる腕に少し力がこもった。擦り寄せられた鼻先が、耳に当たる。息が熱い。

「──お前は? 俺のこと、どう思ってる? ……言えよ」

 また少し、腕に力がこもった。

「………」

(──好きだ。この人が、好きだ。……でも)

 奈津は、言葉が出なかった。

 しばらく返答を待つようにじっとしていた成瀬が、大きく息を吐く。そしてゆっくりと体を離すと、眉間に皺を寄せ、睨むように見下ろした。

「──お前さぁ。自分の態度、矛盾だらけって気付いてる?」

 奈津は、驚いたように目を見開く。

「……分からせてやろうか?」

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