38 / 160
38
しおりを挟む
奈津は、メルマリーに来始めた頃、大失敗したことを思い出した。自分の不注意で、多大な迷惑を掛けてしまったのだ。
その日の披露宴は無事に済み、本城と2人で帰途についていた。そして駅まで来た頃に、本城のスマートフォンが振動した。新郎新婦持ち込み音源のCDアルバムが1枚、紛失したという成瀬からの連絡だった。
すぐに会場に取って返し、本城と一緒に心当たりの場所を探したが、どこにもなかった。
そのCDアルバムは、あまりメジャーではないインディーズのアーティストで、直筆のサインが入っている思い出の品だった。新婦は泣き出し、新郎はどういうことかと怒り、騒ぎはだんだん大きくなった。
持ち込みの音源を最後にまとめたのは、奈津だった。
『なくなる筈はないんだから、どこへやったか落ち着いて思い出せ』
本城も次第に焦りだした。
成瀬は、誰かの引き出物に紛れていないか、音響台に近いテーブルに着いていた親族1人ずつに頭を下げて、引き出物の袋を確認して回った。
奈津は、嫌な汗をかきながら必死で考え……まさかと思い、自分の鞄の中を探ってみると、今日の資料の間に挟まれて、そのCDアルバムが出てきた。
『うわ……』
あの時の、冷水を浴びたような感覚は忘れられない。
新婦は怒るよりも出てきたことに喜んでしまい、それを見た新郎は、それ以上何も言わなかった。
そのあと、成瀬にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。自分の隣で共に頭を下げる本城にも、申し訳ない気持ちで一杯だった。
もうここへは来られないかもしれないと覚悟したが、最終的には、
『もういい。次はないと思え』
と、あっさり解放された。
その時の新郎新婦からは、後日改めて抗議の手紙が届いた。せっかくの楽しい気分を最後の最後で台無しにされた、出てきたからいいようなものの一体どういう管理をしているのか、というような内容だった。当然だと思う。
成瀬は自宅まで謝罪に行ったと、あとから聞いた。申し訳なさすぎて何度も謝る奈津に、その時も、
『ああ、いい。謝るのは俺の仕事だからな』
と言って、それ以上の咎めはなかった。木嶋の言うように、最終的には庇ってくれていたように思う。
その日の披露宴は無事に済み、本城と2人で帰途についていた。そして駅まで来た頃に、本城のスマートフォンが振動した。新郎新婦持ち込み音源のCDアルバムが1枚、紛失したという成瀬からの連絡だった。
すぐに会場に取って返し、本城と一緒に心当たりの場所を探したが、どこにもなかった。
そのCDアルバムは、あまりメジャーではないインディーズのアーティストで、直筆のサインが入っている思い出の品だった。新婦は泣き出し、新郎はどういうことかと怒り、騒ぎはだんだん大きくなった。
持ち込みの音源を最後にまとめたのは、奈津だった。
『なくなる筈はないんだから、どこへやったか落ち着いて思い出せ』
本城も次第に焦りだした。
成瀬は、誰かの引き出物に紛れていないか、音響台に近いテーブルに着いていた親族1人ずつに頭を下げて、引き出物の袋を確認して回った。
奈津は、嫌な汗をかきながら必死で考え……まさかと思い、自分の鞄の中を探ってみると、今日の資料の間に挟まれて、そのCDアルバムが出てきた。
『うわ……』
あの時の、冷水を浴びたような感覚は忘れられない。
新婦は怒るよりも出てきたことに喜んでしまい、それを見た新郎は、それ以上何も言わなかった。
そのあと、成瀬にこっぴどく叱られたのは言うまでもない。自分の隣で共に頭を下げる本城にも、申し訳ない気持ちで一杯だった。
もうここへは来られないかもしれないと覚悟したが、最終的には、
『もういい。次はないと思え』
と、あっさり解放された。
その時の新郎新婦からは、後日改めて抗議の手紙が届いた。せっかくの楽しい気分を最後の最後で台無しにされた、出てきたからいいようなものの一体どういう管理をしているのか、というような内容だった。当然だと思う。
成瀬は自宅まで謝罪に行ったと、あとから聞いた。申し訳なさすぎて何度も謝る奈津に、その時も、
『ああ、いい。謝るのは俺の仕事だからな』
と言って、それ以上の咎めはなかった。木嶋の言うように、最終的には庇ってくれていたように思う。
1
お気に入りに追加
40
あなたにおすすめの小説




百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

寮生活のイジメ【社会人版】
ポコたん
BL
田舎から出てきた真面目な社会人が先輩社員に性的イジメされそのあと仕返しをする創作BL小説
【この小説は性行為・同性愛・SM・イジメ的要素が含まれます。理解のある方のみこの先にお進みください。】
全四話
毎週日曜日の正午に一話ずつ公開
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる