ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 そんなこともあり、この2人の披露宴は忘れられないものになった。今でも思い出すと胸が熱くなり、泣きそうになる。

 でも、昨日挨拶に来たというのは……あの母親に、何かあったのだろうか。

「──それと、あの時の母親は持ち直しているそうだ。最近顔色がいいって、新郎が言ってた」

 少し表情が曇った奈津に気付いたのか、成瀬が説明を付け足した。

「そうですか、それは良かったです」

 奈津はほっと胸を撫で下ろす。息子の結婚が、励みになったのかもしれない。

「あの2人、仲良くやってるみたいだったぞ。打ち合わせの時はどうなることかと思ったけどな」

 全くだった。こんなに頑固な2人が結婚して本当に上手くいくのだろうかと、正直疑問に思っていた。でも、言いたいことを言い合えるのは、やはりいいことなのだろう。

「まあそれも、いい思い出になってくれるだろ。お前との打ち合わせが一番楽しかったって言ってたからな」
「えっ、ほんとですか」
「ああ。お前はムードメーカーなところがあるからなぁ。俺じゃ、そうはいかない」
「いえそんな……成瀬さんには、いつも助けていただいて……」

 鏡越しの、優しい視線に目が止まる。大きな鏡の中に、成瀬に見られている自分がいた。

 袖口のボタンを留め終わった成瀬は振り返り、ゆっくりと奈津に近づいて来る。

「そういえば、お前今日、人前式は初めてだったよな。どうだった?」
「はい、何ていうか、その……感動したっていうか……すごく、良かったっていうか」

 奈津は、素直な感想を口にした。

「え? 何、お前。模擬で感動したの?」
「っ、」

 途端に成瀬が、驚いたような顔をした。奈津はすぐに、そういう感想を聞かれたのではないのではと気付いたが、もう遅かった。

「だって、初めてだったんですよ! ああいう挙式を見るのって。前に親戚のに行った時は神前式でしたし……」

 急に恥ずかしくなり、必死に言い募る。

「挙式って……模擬だから」
「分かってますよっ」

 ますます恥ずかしくなってくる。

「でもっ、お客さんの中にも、うるってきてる人いましたよ!」
「えっ、お前、泣いたの?」
「なっ、泣いてませんっ!」

 泣きそうにはなったが、泣いていない。奈津は顔が真っ赤になった。この頃になると、成瀬はもうくすくす笑いが止まらなくなっていた。

「……くくっ、お前は本当に、純粋だよな」
「すっ、すみませんね!」

 奈津はもう、半ばやけになっていた。成瀬は尚も、くすくすと笑い続ける。

「ほんとに、俺はお前の、そんなところが……」

 成瀬の形のいい右手がゆっくりと、奈津の頬に近づいて、触れた。

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