ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 初め、この2人の音響の打ち合わせには本城と一緒に当たっていたのだが、なかなか曲を決定するに至らず、あまりに何回も呼び出しが掛かるため、途中からは奈津1人で対応するようになった。

 2人の希望は初めから平行線を辿り、そのまま何も決まらずその日の打ち合わせが終わることもあった。本城も報告を聞きながら、ここまでお互いに折れないカップルは初めてだと言った。似たもの同士とは、よく言ったものだ。

 それでも何とか時間を掛けて、2人の間を取りなしながら、1つずつ場面に使う曲を決めていったのだが、キャンドルサービスの曲だけは最後の最後まで決まらなかった。2人共イメージが出来上がっているらしく、お互いに頑として譲らない。

『相川さん、プロの耳で聴いて、どっちの曲がキャンドルサービスにふさわしいと思います?』

 新郎が詰め寄る。
 2人共感じのいいバラード曲を提案しているので、正直どちらでもいいと思う。あまりに場面にそぐわないような曲調ならアドバイスもするのだが、そうでなければ、もう好みの問題だ。

 個人的には、新郎が提案している曲の3連符が続くスローロックのゆったりした曲調が好きだと思ったが、それこそ個人的な好みになってしまう。

 こんな時、新婦の機嫌を損ねると少々厄介なことになる。という、本城のアドバイスを思い出す。

『ええと……そうですね。新婦様のこの曲は、イントロの鐘の音がとてもきれいですよね』
『ほら! プロが言ってるんだから、こっちでいいわよね』
『は? 勝手に決めんなよ』

 新郎の視線が痛い。

『相川さん、歌詞聴いてくださいよ、歌詞。この曲はキャンドルサービスにぴったりなんですよ』
『何言ってんの。歌詞なら絶対、こっちの方がいいって』

 お互いに、スマートフォンに歌詞を表示させて見せてくる。

『俺の方は、永遠という言葉が3回も出てくる』
『こっちはバージンロードって言葉が入ってるんだから! 結婚式にぴったりでしょ』
『キャンドルサービス関係ないじゃん』
『披露宴に合うって言ってんのよっ』

 ……家でやってくれないだろうか。
 こんな調子で、試聴用タブレットを置いたテーブルに向かい合って1時間も2時間も座っていると、時々成瀬が様子を見に来てくれた。

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