ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 続く模擬披露宴では、ケーキカットやキャンドルサービスなど、主なシーンを順に実演していった。本城は慣れた様子で、次々と曲を変え、照明を操作する。

 実際の披露宴なら、各演出の間にはスピーチや余興、歓談などが入るので余裕を持って準備できるところだが、模擬披露宴だと間髪入れずに行うので、そんな余裕など全くない。
 また演出中にも司会者の説明が随所に入るので、音楽の音量も注意が必要だ。普段なら盛り上がるような場面も、今日は皆静かに見ているだけだから、音量を上げすぎると音楽が浮いてしまう。かといって、小さすぎても場面が映えない。

(普段の披露宴より、難しそう……)

 聞いてはいたものの、展開が早い上に模擬特有の雰囲気を見ながらの音響操作に、奈津はメモを取りつつ、ついていくのがやっとだった。

 それがひと段落すると、来訪客にデザートのケーキが配られる。甘いものを前にすると自然と笑顔になるようで、その頃には会場もかなり和らいだ雰囲気に包まれていた。

 白いコックコート姿のパティシエの女性が、各テーブルに挨拶をして回る。本日のウェディングケーキは、彼女の自信作だ。
 パティシエが腕によりをかけて作るメルマリーのウェディングケーキは某ブライダル雑誌の口コミランキングで常に上位に入っており、それが目当てで挙式を決めるカップルもいるらしい。

 キャプテンを務める里崎も、今は自分の担当するカップルのところで話をしていた。メイン席の新郎新婦は、時折雑談をしているようでにこにこと笑っていたが、それだけで十分絵になった。

 ここに来ているカップルは、成瀬たちを見て近い将来の自分たちを重ねていることだろう。どうせ投影するなら、美男美女の方が気持ちがいい。実際には、こんなに様にはならないのかもしれないが、自分たちもあんな風になれるのかと思ってしまう。

 カップルたちは、皆楽しそうにデザートをつついていた。本城はBGMを、一段階テンポを上げた軽やかなものにかえた。

 模擬が始まる前の、ともすれば『値踏みしてやろう』というような白けた空気は、いつの間にか消えていた。今も、すぐ手前のテーブルでは今日の成瀬のタキシードと同じものを当日は借りたいと、話しているのが聞こえる。

(すごいよな……)

 始まる前とは打って変わって和やかになった会場を見渡して、奈津はしみじみと思った。

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