ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

 ブライダルフェアは華やかに、そして順調に進んでいた。初回訪問のカップルに担当がついてチャペルを見学したり、各ブースでは会話も弾む。
 そんな中、模擬挙式も時間通りに始まろうとしていた。

 改めて来訪客が入った披露宴会場は、いつもとはまた違った緊張感に包まれた。実際の披露宴は、当たり前だが新郎新婦を祝福するために皆集まっているので和やかな雰囲気になるのだが、今日は違う。単に『見に来て』いるだけだ。気に入らなかったら、披露宴なんて他所ですればいいのだから。

 居合わせているカップルたちは、お互い以外は見ず知らずの他人なので、会場内ではあまり会話もなくBGMだけが静かに流れた。時々カップルでひそひそ話しているのが聞こえると、どうしても良くないことを言われているような気になる。

 奈津は見ているだけなのに、いつも以上に緊張が増した。成瀬がモデルを嫌がったのも、分かる気がする。

 しかし、奈津の緊張感とは裏腹に、当の成瀬は実に堂々としていた。

 模擬挙式の始まりを告げる司会者のコメントが入ると、軽く腕を組んだモデル役の新郎新婦が扉口に現れる。

 薄いベールに覆われた新婦の横顔は美しく、それを優しくエスコートする成瀬にスポットライトの光が陰影を落とし、端正な顔立ちが際立った。まるでヨーロッパの絵画から抜け出てきたような2人に、会場内の皆の視線は釘付けになった。

 式の間中、新婦役のモデルは恥じらうように薄い笑みを浮かべ、新郎役の成瀬は時折穏やかに微笑んだ。奈津には2人があまりにお似合いに見え、また遠くにいるように思えた。

 今日の新婦はモデルだけれど──
 実際の成瀬の結婚式も、こんな風だったに違いない。こんな風に、誓いの言葉を口にして、指輪を交換し、微笑みを交わし……幸せを享受したのだろう。

 そう思うと、挙式の模様は、奈津には何だか神聖なものに見えてきた。胸の奥が、じわりと熱くなる。

(──あの時のことは、もう忘れよう。何かの間違いだったんだ……成瀬さんは、結婚しているんだから)

 結婚とは、こんなにも神聖なものなのだ。夫婦になったのなら、お互いを裏切るようなことなど、あってはならない。あまりにも当然のことであり──奈津は、身にしみて分かっている筈だった。

 一瞬でも意識してしまった成瀬に対する自分の気持ちを、すごく恥ずかしいと思う。

 時折、成瀬の視線が奈津を捉えたが、今度は目を逸らさなかった。

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