ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 模擬挙式、模擬披露宴のリハーサル開始まで30分を切り、会場では各スタッフがそれぞれ最終のチェックに入っていた。

 司会者はぶつぶつと今日のコメントを反芻し、装花担当はゲストテーブルの花器から溢れる盛り付けの葉先が食器に掛からないよう角度を変えて調整し、配膳スタッフはグラスの曇りをチェックして回った。どれも、過去に成瀬が指摘した箇所だ。どれか1つでも彼の目に止まると、その日の反省会が格段に延びる。

 本城も、今日使用する音源のチェックを済ませ、奈津が合わせた照明の調光を見直していた。

「模擬は展開が早いからな。今日のところはしっかり見ておけ」
「はい」

 今日の模擬挙式は、宴内人前式だ。
 教会式や神前式と違って、神様の前で愛を誓うのではなく、家族や友人たちの前で愛を誓い、皆に承認してもらい祝福してもらうといった主旨の挙式だ。

 そのため場所としてチャペルを使うこともあるが、宗教色を嫌う場合などは披露宴会場で行うことも少なくない。その場合、式が終わるとそのまま披露宴へと移行するので、宴内人前式と称される。

 どちらにしても、牧師や聖歌隊を呼ばないためリーズナブルという利点もあり、近頃人気の挙式スタイルだった。式の内容も、自分たちである程度決めることができるので、オリジナリティが出る。

 奈津は、手元の挙式進行表に目を落とした。
 誓いの言葉に、指輪の交換、それに……誓いのキス、と書かれてある。

(……キスって。まさか、本当にはしないだろうけど)

 キスの2文字に、どうしても先週のことが蘇る。

(………)

「どうだ、皆、準備はできてるか? リハ始めるぞ」

 ふいに成瀬の声が聞こえてきて、奈津は顔を上げた。
 そこには、新郎用の上品なオフホワイトのタキシードを身につけ、胸元にはタイに合わせた淡いピンクのチーフを挿した成瀬が、会場内をぐるりと見回して立っていた。

 普段着ないような衣装をさらりと着こなすモデル顔負けの風貌に、思わず奈津の視線が固まった。この人は、きっと何を着ても似合うに違いない。

「うわ、成瀬さん、やっぱ似合いますねー」

 里崎が、にやにやと笑う。

「うるせぇ。次はお前にやらせるからな。とっとと仕事しろ、時間がもったいない」
「はいはい。では、リハ始めます!」

 新婦役のモデルも入って来て、成瀬の隣に並んで立つ。プロのモデルが隣に並んでも見劣りしないどころか更にしっくりきてしまう。グラビアから抜け出てきたように美男美女で──お似合いに見えた。

(ほんと、無駄に男前だよな……何であんなに堂々としてるんだ)

「じゃあ新郎新婦はこっちに並んで──」

 里崎の指示に、モデルの新婦はするりと自身の右腕を成瀬の腕に絡める。
 成瀬が隣を見て、にこりと笑う。

(………)

 奈津の胸が、ちくりと痛んだ。

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