ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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「っ、」

 ふわりと漂った整髪料の香りにドキリとして、思わず身を引いてしまう。今日の成瀬は、何だかいつもと違う。

(ち、近い……)

 急に近付いた距離に、奈津は何故かドキドキと動揺した。失敗の理由が、成瀬のことを考えていたからだとは、とてもじゃないけど言えない。

「お前、顔が赤いぞ。熱でもあるんじゃないのか」

 成瀬の右手が、ふいをついて額に触れた。

「っ、熱なんて、ありませんっ」

 驚いて振り払おうとするより早く、触れた右手はするりとうなじへ下りていった。

「あっ」

 ひやりとした指の感触に背筋がぞくりと震え、心拍数が跳ね上がる。

「首筋の方が熱って分かるんだよな。お前、やっぱり熱いぞ」

 1人で納得した成瀬の左手も、奈津のうなじを捉える。両手で首筋を囲い込まれ、奈津は成瀬の正面を向いてしまった。

 首筋に置かれた手から、寒気のようなものが全身に走る。突然のことに戸惑い、至近距離で目を合わせられずに視線を泳がせていた奈津は、薄く開いた唇にその目を止めた。それは紅く湿った熱を持っていそうで……例えようもなく、色っぽかった。

「心臓どうしたの? すげーバクバクいってる」
「っ!」

 しまったと思ったが、もう遅い。動揺を悟られてしまい、顔がみるみる赤くなるのが自分でも分かる。

「何……意識してんの?」

 成瀬の口元が、ゆるく歪む。

「ち、ちがっ……あっ」

 必死で否定しようと回らない頭を回していると、成瀬の右手は後頭部に移動し、左手で顎を少し上向けられた。つられて上げた視線の先には、こちらをじっと見つめる潤んだ榛色の瞳があった。

「あ、あの、成瀬さ」

 状況を理解できない奈津に、笑みを含んだような成瀬の顔が近づく。

「あ……の」

 引こうとする顎が更に持ち上げられ──柔らかい熱が、唇に触れた。

「っ、」

 想像した通りの熱さに驚いて身じろくと、後頭部に置かれていた手が奈津の髪の中にくしゃりと入る。背筋がぞくりとした瞬間、舌先が唇の隙間から侵入してきた。

(あっ)

 忍び込んできた舌は、唇以上に熱かった。

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