ブライダル・ラプソディー

葉月凛

文字の大きさ
上 下
5 / 160

5

しおりを挟む
「今日の司会のマイクって、イコライザーの設定はこのままか?」
「あ、基本はそれで……時々調節しましたけど」

 まずかっただろうか。

 成瀬は音響の知識もひと通り持っている。奈津も本城に教えてもらいながら勉強をしているのだが、何といっても経験が乏しい。情けないが、正直自分より詳しい成瀬のアドバイスは的確でありがたく、いつも素直に聞いていた。

「ちょっとこもり気味だったが……まあいい。それより相川、お前なぁ。何だ、今日のあれは」
「……ブライダルキャンドル点火の時、ですよね。すみません」
「どうせ、ぼーっとしてたんだろ。本番中に余計なこと考えてんじゃねぇよ」
「っ、考えてません。タイミングが遅れたことは、その、すみません」

 成瀬は、じろりと奈津を睨む。

「集中してたんなら、あんな単純なタイミング外すかよ。鈍臭いにも程があるだろ」
「……はい」
「あの曲は、新婦の思い出の曲なんだそうだ。一番盛り上がるシーンで、お前が盛り下げてどうすんだよ」
「……はい」
「ほんとに分かってんのか? あの2人にとって今日は一生に一度の大切な記念日だ。新人とか、関係ねぇんだよ。甘えた仕事してんじゃねぇよ」
「………」

(──ああ、始まった)

 成瀬は話がくどいところがある。しかも、だんだん辛辣な物言いになる。周りから、成瀬がやたらスタッフに厳しいと言われる所以だ。

 ただ、間違ったことは言わないし、今回の件にしても全面的にこちらが悪い。奈津は自分のふがいなさを噛み締めながら、心の中でそっと肩を竦めた。

「それと、俺なら新婦のドレスに合わせてメイン点火で赤のホリゾン入れるけどな。それもなかった」
「っ、」

 バレていた。
 音楽と並行して音響が行う照明操作に明確な決まりはないが、こちらのセンスに任されている。

 この会場のメインを照らすホリゾント照明は、柔らかな風合いで美しい。ブライダルキャンドルに点火した際に赤のホリゾント照明が入ると、2人がともした炎がふわっと広がるような幻想的な雰囲気になる。新婦が暖色系のドレスを着ている時は特に入れた方がいいと、本城からもアドバイスを受けていた。

 今日の新婦はオレンジ色のドレスを着ていた。奈津はもちろんホリゾント照明を入れる予定にしていたのだが、音楽のタイミングを外したことに気を取られてしまい、その余裕を失ったのだった。

「お前、やっぱり何か考えたんだろ。何考えてたんだ?」

 ふいに成瀬が、俯く奈津を覗き込んだ。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

BL団地妻-恥じらい新妻、絶頂淫具の罠-

おととななな
BL
タイトル通りです。 楽しんでいただけたら幸いです。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

放課後教室

Kokonuca.
BL
ある放課後の教室で彼に起こった凶事からすべて始まる

カテーテルの使い方

真城詩
BL
短編読みきりです。

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

営業活動

むちむちボディ
BL
取引先の社長と秘密の関係になる話です。

処理中です...