ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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          ◇

「お疲れ様、それじゃお先!」

 最後まで残って作業をしていたベテランのビデオカメラマンが、機材の片付けも終わり、大きな荷物を担いで奈津に声を掛けた。

「お疲れ様です。またよろしくお願いします」

 奈津がにこりと挨拶をすると、何度も一緒に仕事をしているカメラマンは親しげに片手を上げて、会場をあとにした。さっきまで高揚した人たちで賑わっていた披露宴会場に、今は奈津1人だ。

 今日は夕方からのナイトウェディングだったため、時刻も夜の9時をまわっている。華やかに飾り付けられていた会場は装花の撤去も終わり、食器も全て下げられ、テーブルクロスも新しく張り替えられてあっさりとした雰囲気に様変わりしていた。

(成瀬さん、今日は遅いな……)

 いつもなら、まだ皆が片付け作業をしている間に戻って来て、その日のダメ出しをするのが常だった。そんな時、他のスタッフは見て見ぬ振りをして自分たちの作業に集中しているようだったが、時折気の毒そうな視線を向けられていることに、気付かずにはいられないのだった。

(もしかして、忘れているのかな?)

 それならもう、ひと言メモを残して帰ってしまおうかと何か書くものを探そうとしたその時、ほんのりと顔を上気させた成瀬が会場に入って来た。

「悪い! 待たせたな。来週のフェア用のワインが届いてたから、ちょっと試飲してた」

 成瀬はソムリエの資格を持っている。大きなコンクールにも何度か出場していると聞いたことがあった。

「いえ、こちらこそ、お忙しいところすみません」

 注意を受ける立場ということもあり控えめに頭を下げる奈津は、成瀬を見て内心で少し首を傾げた。……本当に、『ちょっと試飲』していただけなのか?

 成瀬は上着を着ておらず、タイも外してシャツの第二ボタンまでまで開かれ、胸元がちらりと垣間見えた。顔は決して赤くないが、目元にほんのり朱が差し潤んでいるように見えて、妙に色っぽい。
 つい、凝視している自分に気付き、奈津は思わず目を逸らした。

 成瀬は音響台の内側にするりと入ると、奈津の真横に立った。服越しの体温が、ふわりと伝わってくる。音響台は会場後方の隅に、メイン席に向けて斜めに設置してあり、三角に空いた狭いスペースは大人2、3人がやっと入れる程度だった。

 何となく落ち着かない気持ちの奈津に、成瀬は全く気付いていない様子で、ミキサー卓の設定に手を伸ばしながら話し出した。

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