ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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 奈津がゆるゆると後悔している間にも披露宴は進行してゆく。メイン席へ移動した新郎新婦の一礼に合わせて音楽と照明を上げると、祝福の拍手に包まれながら、キャンドルサービスは終了した。

「それではしばらくの間、お食事とご歓談でお楽しみください」

 司会者のコメントで軽妙なBGMに切り替え、会食タイムがスタートする。友人たちが早速2人のところへ歩み寄ると、音響台近くの親族席からも和やかな談笑が聞こえ出した。配膳スタッフが料理のサービスを再開する。

(──引きずってちゃだめだ。後半がんばらないと)

 自分に言い聞かせつつ、会場がひと段落したことをぐるりと見届けていた奈津の目に、メイン席近くに立つ成瀬の姿が映った。

 穏やかそうな笑みを浮かべながら、会場に不備がないか注意深く見渡していた彼の目は、やがて音響台に立つ奈津のところで止まった。

 咄嗟に、奈津の心臓がドキリと脈打つ。成瀬はじっとこちらを見つめたかと思うと、すいと目線を外し、メイン席に向かって黙礼したのち、会場の端を通ってすたすたと奈津のところへやって来た。

(あ……これは)

 そして音響台を覗き込むと、穏やかな笑みを浮かべたまま、

「相川、あとでちょっと残れ。いいな」

 とだけ告げ、返事も聞かずに踵を返して行ってしまった。

(……やっぱり、そうだよな)

 奈津は、がっくりと肩を落とした。

 今月に入り1人で仕事に就くようになってから、奈津はたびたび成瀬に残されて注意を受けていた。音楽の音量が大きすぎる、小さすぎる。タイミングが合っていない、マイクの音質調整ができていない、お任せ部分の選曲がなっていない、etc……。

 本当は、密かに憧れる成瀬に少しでも早く認めてもらえるよう頑張っているのだが、現実はそう上手くいかない。自分でもなかなか納得のいく仕事ができていない歯痒さも相まって、成瀬の小言はいちいちもっともで耳に痛かった。

 何より、あの端正な顔から笑みが消えると、恐ろしく冷たく見えるのだ。切れ長の目元は鋭さを増すし、表情を消した薄い口元はいかにも酷薄そうに見える。その唇から淡々と己の非を言い聞かされると、もうこの仕事を辞めてしまいたくなる。

『悪い人じゃないんだけどな。仕事には厳しいから、気を引き締めてかかれ』

 マネージャーの本城は、そう言っていたが。

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