ブライダル・ラプソディー

葉月凛

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(こんな素敵な人の心を射止めた女性は、一体どんな人なんだろう)

 そんなことをふと思い、奈津の胸はもやりと曇る。奈津は、密かに成瀬に憧れていた。いつか自分もこんな男性になれたらいいと思っているが、そんな日は来そうになかった。

 成瀬と話す時はいつも見上げる立場の奈津は、体の肉付きも悪く貧弱だ。どこにもいそうな平凡な顔は、瞳の黒目が大きいせいで幼く見えるのもコンプレックスだった。この歳になって、身長にしろ体重にしろ、劇的に成長するとは思えない。

 ただ、鏡の中に見慣れた平凡な顔は目鼻立ちのバランスが良いことも、それが年を追うごとに深みを増していることも、大きな漆黒の瞳が相手を惹きつけてやまないことも、本人は気が付いていないのだった。

 奈津は、小さくため息をついた。

 成瀬に導かれ、幸せの真っ只中にいる新郎新婦は、ブライダルキャンドルの前に来ていた。近くでベストタイミングな写真を撮ろうと、友人たちが席を立ち集まって来る。皆の準備が整った頃を見計らって、成瀬はリングが収まっているであろう左手を司会者に向けてゆっくりと上げた。2人は恥ずかしそうに目配せをする。

 成瀬もこんな風に、愛する女性と共にキャンドルに火をともしたのか──無意識にそんな想像が奈津の頭をよぎった、その時、

「ブライダルキャンドル、ご点火です!」

 司会者の、一際明るい声が響き渡った。

「あっ」

 フラッシュが瞬き、皆の歓声と湧き起こる拍手の中──ブライダルキャンドルに点火した時に流す曲が、一瞬遅れてしまった。

「……しまった」

 披露宴の音響というのは、行われる様々な場面において最も感動的になるよう演出しなければならない。より効果的な音楽と照明の演出には長年の経験や感性が必要だが、今のようにブライダルキャンドル点火と同時に決められた音楽を流す、などはそれ以前の問題だ。

 正確には、タイミングが少々遅れた程度なら、間違った曲をかけた訳ではないのだから、クレームにはならない。新郎新婦をはじめゲストも、言われなければ気付く人は少ないだろう。でも、より良い演出ができた筈だし、するべきだった。要はプロ意識の問題なのだ。

 そして成瀬も、その点では非常に厳しいと有名だった。

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