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未夏川の水は、今日も澄んでいた。
さらさらと川底の石を撫でる水は穏やかで、時折白いサギが舞い降りて水面を啄む。
11月も後半に差しかかり、見上げる空は抜けるように青かった。
「おはよう! 本城君。前に言ってた音響スタッフね、今週から募集かけるから」
櫻井音楽事務所は、今日も通常運転だ。
薫がまとめた音響マニュアルは大いに役立っているようで、島崎と共に新人研修にも取り組む予定だった。
やっぱり結婚にシーズンがあることがよく分からない薫だが、12月に入ると婚礼件数は落ち着くらしく、その頃に研修スケジュールを組んでいる。薫が作成したホームページと地元のタウン誌に、同時掲載で募集をかける予定だ。
あの事件から、2週間が過ぎていた。
いつか美奈子が言っていたが、櫻井が仕事でややこしい案件を抱えているのは事実だったようで、会えない日が続いていた。
でも電話は毎日のようにあり、あの事件の、その後の進捗も聞いている。
薫を襲った3人は現行犯ということもあり、薫が被害届を出すまでもなく逮捕、そして起訴される可能性が高いらしい。3人のうち増本を除くあとの2人は余罪も見つかり、実刑になりそうとのことだった。
ただ主犯格である増本は今回初犯ということで、不起訴になる可能性があるらしい。
『え、初犯なの?』
増本は例の怪しい薬を使って犯罪まがいなことをしているらしいので、初犯な筈がないと思う。今回に関して言うなら、未遂ではあるが。
『自分は捕まらないよう、上手く立ち回ってたんだよ』
薫は苦々しい気持ちを噛みしめる。それは、父親が警察関係だということが関係しているのではないか。
『いや、増本の父親はきちんとした人だった。息子がここまでしているとは、今回初めて知ったらしい。不起訴になっても知り合いの寺に預けるって言ってたぞ。真言宗の厳しい寺らしいから、相当きついだろうな』
櫻井はそう言って、くくっと笑った。
彼らに慰謝料を請求するなら力になるとも言われたが、それは断った。あの2人は刑事できちんと裁かれるならそれでいいし、増本も寺修行に入るならそれでいい。というか、何よりもう関わりたくない。
英司からは、あのあと一度電話があった。櫻井から、今回のことで警察から英司に連絡がいくだろうと聞いていたのでその件だろうと思って電話に出ると、開口一番に謝られた。
『ごめん! ごめん、薫。まさか、こんな事になるなんてっ……俺があいつに余計なこと話したばっかりに、ほんとにすまなかった!』
電話の向こうで頭を下げているだろう英司に、薫は苦笑した。
増本には、バーで1人で飲んでいる時に声をかけられたそうだ。薫が電話に出なくなり苛々しているところに隣に居合わせ、愚痴を零すうちについ話しすぎたらしい。
未夏川の水は、今日も澄んでいた。
さらさらと川底の石を撫でる水は穏やかで、時折白いサギが舞い降りて水面を啄む。
11月も後半に差しかかり、見上げる空は抜けるように青かった。
「おはよう! 本城君。前に言ってた音響スタッフね、今週から募集かけるから」
櫻井音楽事務所は、今日も通常運転だ。
薫がまとめた音響マニュアルは大いに役立っているようで、島崎と共に新人研修にも取り組む予定だった。
やっぱり結婚にシーズンがあることがよく分からない薫だが、12月に入ると婚礼件数は落ち着くらしく、その頃に研修スケジュールを組んでいる。薫が作成したホームページと地元のタウン誌に、同時掲載で募集をかける予定だ。
あの事件から、2週間が過ぎていた。
いつか美奈子が言っていたが、櫻井が仕事でややこしい案件を抱えているのは事実だったようで、会えない日が続いていた。
でも電話は毎日のようにあり、あの事件の、その後の進捗も聞いている。
薫を襲った3人は現行犯ということもあり、薫が被害届を出すまでもなく逮捕、そして起訴される可能性が高いらしい。3人のうち増本を除くあとの2人は余罪も見つかり、実刑になりそうとのことだった。
ただ主犯格である増本は今回初犯ということで、不起訴になる可能性があるらしい。
『え、初犯なの?』
増本は例の怪しい薬を使って犯罪まがいなことをしているらしいので、初犯な筈がないと思う。今回に関して言うなら、未遂ではあるが。
『自分は捕まらないよう、上手く立ち回ってたんだよ』
薫は苦々しい気持ちを噛みしめる。それは、父親が警察関係だということが関係しているのではないか。
『いや、増本の父親はきちんとした人だった。息子がここまでしているとは、今回初めて知ったらしい。不起訴になっても知り合いの寺に預けるって言ってたぞ。真言宗の厳しい寺らしいから、相当きついだろうな』
櫻井はそう言って、くくっと笑った。
彼らに慰謝料を請求するなら力になるとも言われたが、それは断った。あの2人は刑事できちんと裁かれるならそれでいいし、増本も寺修行に入るならそれでいい。というか、何よりもう関わりたくない。
英司からは、あのあと一度電話があった。櫻井から、今回のことで警察から英司に連絡がいくだろうと聞いていたのでその件だろうと思って電話に出ると、開口一番に謝られた。
『ごめん! ごめん、薫。まさか、こんな事になるなんてっ……俺があいつに余計なこと話したばっかりに、ほんとにすまなかった!』
電話の向こうで頭を下げているだろう英司に、薫は苦笑した。
増本には、バーで1人で飲んでいる時に声をかけられたそうだ。薫が電話に出なくなり苛々しているところに隣に居合わせ、愚痴を零すうちについ話しすぎたらしい。
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