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久しぶりに乗る櫻井の車は、いつになく運転が荒かった。赤信号でどこかに電話をかけると、信号が変わった途端に急発進する。
こんなに苛々する櫻井は初めてで、薫は遠慮がちにそっと声をかけた。
「……ねぇ、何でここが分かったの?」
櫻井はちらりと薫を見て、視線を前に戻した。
「小夜子さんだよ。君が連れ去られるところを見てたそうだ」
「え?」
櫻井はポケットからスマートフォンを取り出し、手早くパスワードを入れると薫に投げた。
「メール。見てごらん」
薫がスマートフォンを操作し、それらしいメールを見つける。本文もなしに送られた動画を再生すると、そこにはまさしく、車に押し込まれる自分の様子が写っていた。
「っ、これっ」
そうだ。あの時、髪の長い女性がこちらを見ていた。小夜子だったのか。
以前、大病院の1人息子、啓太との別れ話に立ち会った、あの時の女性だ。
啓太にもう連絡しないと約束した小夜子は、代わりに櫻井にもらった名刺を取り出した。
「小夜子さん、俺に電話くれたんだよ。 啓太の恋人が誘拐されたって。その画像があったから、すぐに犯人が分かった」
動画には、佐々木の顔と共に車のナンバーもはっきりと写っていた。
「小夜子さんに、お礼を……」
「それはやめた方がいいな。ほら、色々ややこしくなるから。俺があとで連絡しておくよ」
「………」
確かに、『啓太の恋人』として礼を言う自分を想像すると何とも言えない気分になった。
本来なら恋敵(?)である筈なのに、『彼を助けてあげて欲しい』と言い切った彼女は、清廉な女性だ。啓太には、もったいない。
「さっき一緒に来てた人たちは、警察の人?」
「そうだよ。父親に連絡を取ったから」
医大生の父親は、警察関係だ。
「画像を送ったら、すぐに信じてくれた。出入りしているマンションが幾つかあったから、特定にちょっと時間がかかった」
櫻井は、くっと眉間に皺を寄せた。
「あのマンション、佐々木の家なんだ」
あの趣味の悪いキングサイズのベッドを思い出し、気分が悪くなる。
「佐々木?」
「あの茶髪の、医大生の」
「あいつは増本だよ。増本祐二」
「……増本」
偽名を使われていたのかと、ため息をつく。
「君は人を信用しすぎだ。危なっかしくて、見てられない」
「……そんなことないし」
「自覚がないから、やっかいだね」
助手席に沈み込んだ薫をちらりと見た櫻井は、ようやく口元に少し笑みを浮かべた。
こんなに苛々する櫻井は初めてで、薫は遠慮がちにそっと声をかけた。
「……ねぇ、何でここが分かったの?」
櫻井はちらりと薫を見て、視線を前に戻した。
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「え?」
櫻井はポケットからスマートフォンを取り出し、手早くパスワードを入れると薫に投げた。
「メール。見てごらん」
薫がスマートフォンを操作し、それらしいメールを見つける。本文もなしに送られた動画を再生すると、そこにはまさしく、車に押し込まれる自分の様子が写っていた。
「っ、これっ」
そうだ。あの時、髪の長い女性がこちらを見ていた。小夜子だったのか。
以前、大病院の1人息子、啓太との別れ話に立ち会った、あの時の女性だ。
啓太にもう連絡しないと約束した小夜子は、代わりに櫻井にもらった名刺を取り出した。
「小夜子さん、俺に電話くれたんだよ。 啓太の恋人が誘拐されたって。その画像があったから、すぐに犯人が分かった」
動画には、佐々木の顔と共に車のナンバーもはっきりと写っていた。
「小夜子さんに、お礼を……」
「それはやめた方がいいな。ほら、色々ややこしくなるから。俺があとで連絡しておくよ」
「………」
確かに、『啓太の恋人』として礼を言う自分を想像すると何とも言えない気分になった。
本来なら恋敵(?)である筈なのに、『彼を助けてあげて欲しい』と言い切った彼女は、清廉な女性だ。啓太には、もったいない。
「さっき一緒に来てた人たちは、警察の人?」
「そうだよ。父親に連絡を取ったから」
医大生の父親は、警察関係だ。
「画像を送ったら、すぐに信じてくれた。出入りしているマンションが幾つかあったから、特定にちょっと時間がかかった」
櫻井は、くっと眉間に皺を寄せた。
「あのマンション、佐々木の家なんだ」
あの趣味の悪いキングサイズのベッドを思い出し、気分が悪くなる。
「佐々木?」
「あの茶髪の、医大生の」
「あいつは増本だよ。増本祐二」
「……増本」
偽名を使われていたのかと、ため息をつく。
「君は人を信用しすぎだ。危なっかしくて、見てられない」
「……そんなことないし」
「自覚がないから、やっかいだね」
助手席に沈み込んだ薫をちらりと見た櫻井は、ようやく口元に少し笑みを浮かべた。
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