コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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          ◇

「──で、……」
「……どうす……」

 人の話し声で目が覚めた。──頭が痛い。

「またお前が先かよ」
「当たり前だろ、俺が見つけてきたんだから」

 どこかに横になっている。
 薄目を開くと、明るい光が眩しく滲みた。

「しょーがねーな。……あ、やっと起きた」

 知らない部屋の知らないベッドの上で目を開くと、明るい光を遮るように佐々木が覗き込んできた。

「おはよう。よく寝てたねぇ」
「………」

 糸のような目が、にぃ、と弧を描く。
 ……思い出した。この男は前にあのバーで薫に絡んできた男だ。櫻井のクライアントの、息子の悪友。医大生で、やっかいな半グレに目をつけられそうになってるとかで、桜井が軽く脅して追い払ってくれた。確か、変な薬を作って……薫は、思わず自身の喉を撫でた。何を飲まされた?

「ん? ああ、心配しなくてもいいよ、たいした薬じゃないから。ちょっと三半規管に作用するやつ。もう切れてるだろ?」
「………」

 言われてみると、目眩は治まっていた。頭はまだ痛いが。

「やっぱ頭痛残ってる? 喉は?」
「………」

 薫が声を出さないでいると、佐々木がぐい、と顎を掴んだ。

「なぁ。喉は渇いてる? って聞いてんの」
「っ、……乾いて、ない」
「ふーん。頭痛は?」
「少し」

 佐々木はパッと手を放すと、ベッドから離れていった。

「やっぱ頭痛は残るかぁ。……鎮痛成分もうちょい混ぜてみっか」
「ははっ、研究熱心だねぇ」
「頭痛が残ると吐いたりすんだよ。萎えるじゃん」

 声のする方を見ると、佐々木の他に先程の男が2人、ローテーブルを囲んでいた。テーブルの上には缶ビールが幾つも乗っている。一体どれくらい、意識を失っていたのか。

 薫はゆっくりと体を起こした。

 佐々木が部屋の隅から三脚を持って来て、設置している。セットしたカメラを覗きながら微調整する様子に、心臓が嫌な音を立てた。

 カメラは、薫の方を向いている。

「……何の真似だ」
「ええ? ほら、せっかくだからさ。いい感じに撮ってやるよ」

 男どもが、にやにやしている。
 よく見るとテーブルの上、缶ビールに混じってグロテスクな玩具が幾つか置いてある。

 薫の背中に、冷たい汗が伝った。

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