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「でもね、すごく落ち込んでるんだよ、君島さん。そりゃもう、見てて可哀相なくらい。そのさ、新しい彼氏って結構年上なんでしょ? 心配してたよ、君島さん」
そんなことまで話したのか、と薫は不快になった。
「あの、付き合ってませんから。そういう人は、いません」
「そうなの? なら、いいじゃない。会ってあげてよ」
そこから佐々木は、英司がどれだけ薫を想っているか、会いたがっているかをくどくどと話し出した。
薫はそれを黙って聞いていたが、話せば話す程、佐々木の話には中身がなかった。
一方的に話す佐々木に、薫は時々ため息を呑み込みながら、アイスコーヒーで気を紛らわせる。
いつになったら解放されるんだと、いい加減うんざりしながら氷のほとんど溶けた残り少ないコーヒーをストローで混ぜていると、不意に佐々木が言った。
「てかさ、君もきっちり別れる前に手ぇ出された訳だろ? 相手がいる奴に手ぇ出すなんてさ、最低だよな、櫻井って奴は」
「え?」
顔を上げた拍子に、くらりと目眩がした。思わず、目元を押さえて俯く。
「あれ、どうしたの? 本城君」
閉じた瞼の裏で、目が回っていて気持ちが悪い。いや、それより今、佐々木は櫻井と言った。櫻井の名前は、英司にも出していない筈だ。
「本城君、大丈夫?」
何で、佐々木が櫻井のことを知っているのか。
目がぐるぐると回る。
「……だめそうだね。いいよ、俺車だから、送って行ってあげるよ」
薄目を開けると回る視界の端で、佐々木の糸のような目がいやらしく歪んだ。
伝票を持って立ち上がり、カウンターで精算している。
「……ええ、ちょっと連れが気分悪くなっちゃって。あ、大丈夫です、俺車なんで。ごちそうさまでした!」
すたすたと戻って来た佐々木が薫の腕をぐいと引き上げ、肩に回した。佐々木の顔が近付き、その耳に透明感のあるブルーのピアスがキラリと光った。
「さ、行こうか」
「………」
立ち上がると、更に目が回る。
しゃべると吐きそうで、声が出ない。
心配そうな店員の視線を感じながら、薫は佐々木と店を出た。
そんなことまで話したのか、と薫は不快になった。
「あの、付き合ってませんから。そういう人は、いません」
「そうなの? なら、いいじゃない。会ってあげてよ」
そこから佐々木は、英司がどれだけ薫を想っているか、会いたがっているかをくどくどと話し出した。
薫はそれを黙って聞いていたが、話せば話す程、佐々木の話には中身がなかった。
一方的に話す佐々木に、薫は時々ため息を呑み込みながら、アイスコーヒーで気を紛らわせる。
いつになったら解放されるんだと、いい加減うんざりしながら氷のほとんど溶けた残り少ないコーヒーをストローで混ぜていると、不意に佐々木が言った。
「てかさ、君もきっちり別れる前に手ぇ出された訳だろ? 相手がいる奴に手ぇ出すなんてさ、最低だよな、櫻井って奴は」
「え?」
顔を上げた拍子に、くらりと目眩がした。思わず、目元を押さえて俯く。
「あれ、どうしたの? 本城君」
閉じた瞼の裏で、目が回っていて気持ちが悪い。いや、それより今、佐々木は櫻井と言った。櫻井の名前は、英司にも出していない筈だ。
「本城君、大丈夫?」
何で、佐々木が櫻井のことを知っているのか。
目がぐるぐると回る。
「……だめそうだね。いいよ、俺車だから、送って行ってあげるよ」
薄目を開けると回る視界の端で、佐々木の糸のような目がいやらしく歪んだ。
伝票を持って立ち上がり、カウンターで精算している。
「……ええ、ちょっと連れが気分悪くなっちゃって。あ、大丈夫です、俺車なんで。ごちそうさまでした!」
すたすたと戻って来た佐々木が薫の腕をぐいと引き上げ、肩に回した。佐々木の顔が近付き、その耳に透明感のあるブルーのピアスがキラリと光った。
「さ、行こうか」
「………」
立ち上がると、更に目が回る。
しゃべると吐きそうで、声が出ない。
心配そうな店員の視線を感じながら、薫は佐々木と店を出た。
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