コントレイルとちぎれ雲

46

　櫻井音楽事務所は、こういった生演奏や、この前のような音響の仕事を請け負う会社だ。と言っても７割くらいが生演奏の仕事で、音響はまだそれ程多くない。これから増えるだろう、という美奈子の見解だった。

　代表以外の社員は絵里だけらしいが、規模の小さい事務所とはいえ、請け負う仕事や現場は幅広い。留守番中に薫が受けた電話も、大手ホテルなど有名どころが幾つかあった。

　美奈子自身もキーボード奏者として活躍しており、自らレッスンも行っている。プロの演奏者やボーカリスト、最近増えてきつつある音響に司会者までと、在籍者は多く抱えているようだった。

「それでね、今度駅前に外資系のホテルが建つでしょう。うちも営業かけるんだけど、その前に会社概要をちょっと作り直そうって、絵里ちゃんと話してたのよね」

　薫は、机の上に置いてあった櫻井音楽事務所の会社概要のファイルを手に取った。

「そう、それそれ。何かこう、もうちょっと目を引くものにしたいのよね。あと、うちのホームページ見てくれた？　あれもさぁ、ちょっと変えたいのよ」

　薫は会社概要のファイルもホームページも見たが、どちらもシンプルで分かりやすい内容になっている。

　ただ、シンプルすぎて、ちょっと味気ないのも事実だった。これだと、あまり印象には残らないかもしれない。

「あのホームページは、ご自身で作られたんですか？」
「そうなのよ、絵里ちゃんと２人で作ったの。やっぱり素人っぽいわよねぇ。本城君って、こういうの得意？」
「得意という訳ではないのですが、前の職場で扱ってたので、分かります」

　前の職場である広告代理店では、ホームページの作成とメンテナンスも請け負っていたので、要領は分かる。

「そうなの？　直せるかしら」
「そうですね、良ければやってみますよ」
「ほんと？　助かるわぁ！　ありがとう、よろしくね」

　美奈子が嬉しそうに笑う。
　どうやら当面の薫の仕事は、会社概要とホームページの作成になりそうだった。