コントレイルとちぎれ雲

葉月凛

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「じゃあ次 、プロデモのリハいきまーす」

 生徒たちのリハがひと通り終わると、続いてプロデモのリハだ。プロデモ、プロのデモンストレーションは、凝った照明演出が入る。暗転の中、真っ赤なスポットライト先行で曲を入れたり、光の波が会場の壁を走ったりする。

 照明操作はホテルスタッフが行うので、こちらはノータッチだ。

 生徒のダンスの時とはまた違い、一気に華やかさを増すプロのダンスは見応えも十分で、リハの段階でも見ている人から拍手が起こった。その分、照明や音響にも細かな注文が入るので、気は抜けない。

 プロデモのリハーサル中に、美奈子が戻って来た。

「任せちゃってごめんね! 支配人とちょっと話し込んじゃった。 島崎君、どんな感じ? 順調?」
「ええ。ちょうど次が環先生のリハですよ」

 登場口で待機している環が手を上げて合図を出すと、照明が落ちる。そして、部屋全体にピ ンク色の光の花びらが舞い落ちた。

 昨日の照明チェックで最後に見た演出は、環のデモの演出らしい。 桜吹雪をイメージしているとのことだった。

 曲が流れると、パートナーの女性の手を取り、颯爽とフロアに出る。中央できれいなお辞儀をすると照明がふわりと変わり、柔らかな色合いと音楽の中、環が差し伸べる手の先で女性がくるりと軽やかに回った。

 流れるように曲線を描くしなやかな体が、美しい。女性もさることながら、環の滑らかな動きに目が行く。思わず見とれてしまった薫に、島崎がそっと顔を寄せた。

「ルンバだよ、環先生の十八番」

 タンゴやサンバなど派手なダンスをプロデモに持ってくる先生が多い中、環はルンバを踊ることが多いらしい。

「ルンバは、愛の踊りって言われてるらしくてね。 環先生、愛がテーマだから」 

 フロアでは、まさに愛を紡ぐように環が女性をリードしている。するりと離れる女性をそのたびに環が引き止め、振り向かせて愛を求めているように見える。……少し、艶めかしい腰使いが気になるが。

 そして、最後にフロアの中央で絡みつくように体を密着させて、曲が終わった。部屋の照明が明るくなる。

 やはり拍手が巻き起こる中、島崎が環指定のチェイサーをかけた。

 ダンスが終わった後にもう一度曲をかけて、それにのせて皆に挨拶をし、フロアを回って退場するらしい。

 チェイサーとは追いかける、という意味合いだったか。つい酒と結びつけてしまった自分が恥ずかしい。

「他の先生のチェイサーは同じ曲を頭からもう一度流すだけなんだけど、環先生は編集してくるから」

 環のチェイサーは曲のサビから出るように編集してあるらしく、こだわりが見て取れた。

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