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「そうだ、楓から写真がきたんだった。美弥子の写真、見てみるか?」
「え? あ、そうだね、見てみたい」
言われてみて、見合い相手だったのに写真すら1度も見ていなかったことに思い至る。仮にも自分を気に入ってくれたという女性を、ぜひ見てみたい。
北野はスマートフォンを取り出すと、少し操作して夏樹に差し出した。
「──これだよ、これが美弥子」
「えー、どんな人? ……えっ」
そこには、楓が髪を伸ばしてそのままにしたような、恐ろしく目鼻立ちの整った美しい女性が、にこやかに微笑みながら写っていた。
「え……嘘……」
夏樹は唖然とその写真を見つめる。こんな美人が自分に惚れたなど、信じられない。もう、一生分の恋愛運を使い切ったのではないか。
「──お前、今、『惜しいことした』って思っただろ」
「っ、」
低い声が隣から聞こえてきて、夏樹はぶんぶんと首を振った。
「まさか! 思ってないよっ、そんなことっ。ぜんぜん、全く! ……あっ、この隣の人が、その彼かな」
美女の隣には、どこにでもいそうな冴えない風体の男性が写っている。
「そうらしい。楓が、これならお前の方が良かったってさ」
「ははっ、優しそうな人じゃん」
自分のことも踏まえると、どうやら美弥子は庶民的な男性が好みらしい。写真に写る男性は、少し下がった眉と目尻に笑い皺を浮かべ、穏やかに微笑んでいた。
「上手くいくといいね」
「そうだな」
北野はスマートフォンをしまうと、再び夏樹の肩を抱いた。髪に柔らかいキスを受け、くすぐったくて微笑む。
昔、お世話になった施設の寮母さんに言われた言葉には、続きがあった。
『夏樹君は、優しい子ね──優しい心って伝染するから、夏樹君の周りは優しい人でいっぱいになるわよ。だから絶対、幸せになれる』
眼下に広がる街並みに、忙しく行き交う人々が見える。その中に紛れるように過ごしてきた夏樹は、ようやく誰かの隣に立ち止まる。
見つけた居場所は温かく、その手は大きくて優しい。
ポケットで振動するスマートフォンに、おそらく昼休憩がとっくに過ぎていると思いながら気付かないふりをする、夏樹だった。
(おわり)
☆最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
「え? あ、そうだね、見てみたい」
言われてみて、見合い相手だったのに写真すら1度も見ていなかったことに思い至る。仮にも自分を気に入ってくれたという女性を、ぜひ見てみたい。
北野はスマートフォンを取り出すと、少し操作して夏樹に差し出した。
「──これだよ、これが美弥子」
「えー、どんな人? ……えっ」
そこには、楓が髪を伸ばしてそのままにしたような、恐ろしく目鼻立ちの整った美しい女性が、にこやかに微笑みながら写っていた。
「え……嘘……」
夏樹は唖然とその写真を見つめる。こんな美人が自分に惚れたなど、信じられない。もう、一生分の恋愛運を使い切ったのではないか。
「──お前、今、『惜しいことした』って思っただろ」
「っ、」
低い声が隣から聞こえてきて、夏樹はぶんぶんと首を振った。
「まさか! 思ってないよっ、そんなことっ。ぜんぜん、全く! ……あっ、この隣の人が、その彼かな」
美女の隣には、どこにでもいそうな冴えない風体の男性が写っている。
「そうらしい。楓が、これならお前の方が良かったってさ」
「ははっ、優しそうな人じゃん」
自分のことも踏まえると、どうやら美弥子は庶民的な男性が好みらしい。写真に写る男性は、少し下がった眉と目尻に笑い皺を浮かべ、穏やかに微笑んでいた。
「上手くいくといいね」
「そうだな」
北野はスマートフォンをしまうと、再び夏樹の肩を抱いた。髪に柔らかいキスを受け、くすぐったくて微笑む。
昔、お世話になった施設の寮母さんに言われた言葉には、続きがあった。
『夏樹君は、優しい子ね──優しい心って伝染するから、夏樹君の周りは優しい人でいっぱいになるわよ。だから絶対、幸せになれる』
眼下に広がる街並みに、忙しく行き交う人々が見える。その中に紛れるように過ごしてきた夏樹は、ようやく誰かの隣に立ち止まる。
見つけた居場所は温かく、その手は大きくて優しい。
ポケットで振動するスマートフォンに、おそらく昼休憩がとっくに過ぎていると思いながら気付かないふりをする、夏樹だった。
(おわり)
☆最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!
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