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食事を終えて自席に戻ると、北野が姿を見せた。
「あ、北野さ……支社長」
目を細めて微笑んだ北野は、軽く手を上げる。
「秘書室の方だが、来週から頼む。……阪木さん、すみません。そういうことなので、申し送りがあれば今週中に」
話しかけられた阪木が、眉を下げた。
「はい、了解。てか、人が悪いよー、北條支社長」
阪木が、くるりと椅子を回す。
「俺、変なことしてませんよね? 大丈夫かなぁ……何でか、部長いないし」
最後は小さな声で呟いた阪木に、夏樹も川原に用があったことを思い出す。
「そうなんですよね、俺も捜してたんですけど……川原部長はお休みですかね?」
騙し討ちのように連れて行かれた見合いとはいえ、あんな形で席を立ってしまったことを詫びようと思っていたのだが、今日は朝から川原がいなかった。
すると北野が、にっこりと笑った。
「ああ、川原さんにはうちの系列会社の1つを任せることになってね。早速今日から行ってもらってるよ」
「え? 系列会社?」
首を傾げる夏樹に、阪木も身を乗り出す。
「えっ、川原部長、栄転ですか」
「もちろん。彼は随分とやり手のようだからね。その能力を遺憾なく発揮してもらおうと思う」
「へぇ……そうでしたか。それは張り切って行かれたことでしょうね」
阪木が驚いたように言う。川原が相当な狸だということは、夏樹が知らないだけで阪木など社内の一部の人間には既知の事実だった。結局は夏樹も、身をもって知ることになったのだが。
北野が薄く笑う。
「ええ。それはもう、喜んで引き受けてくれましたよ。彼に任せれば安心だ。ただ……ちょっと冬場は雪深くなるところでね。吹雪くとフェリーも欠航になるからしばらく本土に戻れなくなるし、ほんの少うし、不便ですが。まぁ、20世帯くらいは住居もあった筈なので、問題はないでしょう」
「………」
人はそれを、左遷と呼ぶ。
あとで分かったことだが川原は例の見合いについて、夏樹に何の断りもないどころかあたかも乗り気であるかのように、勝手に話を進めていたらしい。
「あ、北野さ……支社長」
目を細めて微笑んだ北野は、軽く手を上げる。
「秘書室の方だが、来週から頼む。……阪木さん、すみません。そういうことなので、申し送りがあれば今週中に」
話しかけられた阪木が、眉を下げた。
「はい、了解。てか、人が悪いよー、北條支社長」
阪木が、くるりと椅子を回す。
「俺、変なことしてませんよね? 大丈夫かなぁ……何でか、部長いないし」
最後は小さな声で呟いた阪木に、夏樹も川原に用があったことを思い出す。
「そうなんですよね、俺も捜してたんですけど……川原部長はお休みですかね?」
騙し討ちのように連れて行かれた見合いとはいえ、あんな形で席を立ってしまったことを詫びようと思っていたのだが、今日は朝から川原がいなかった。
すると北野が、にっこりと笑った。
「ああ、川原さんにはうちの系列会社の1つを任せることになってね。早速今日から行ってもらってるよ」
「え? 系列会社?」
首を傾げる夏樹に、阪木も身を乗り出す。
「えっ、川原部長、栄転ですか」
「もちろん。彼は随分とやり手のようだからね。その能力を遺憾なく発揮してもらおうと思う」
「へぇ……そうでしたか。それは張り切って行かれたことでしょうね」
阪木が驚いたように言う。川原が相当な狸だということは、夏樹が知らないだけで阪木など社内の一部の人間には既知の事実だった。結局は夏樹も、身をもって知ることになったのだが。
北野が薄く笑う。
「ええ。それはもう、喜んで引き受けてくれましたよ。彼に任せれば安心だ。ただ……ちょっと冬場は雪深くなるところでね。吹雪くとフェリーも欠航になるからしばらく本土に戻れなくなるし、ほんの少うし、不便ですが。まぁ、20世帯くらいは住居もあった筈なので、問題はないでしょう」
「………」
人はそれを、左遷と呼ぶ。
あとで分かったことだが川原は例の見合いについて、夏樹に何の断りもないどころかあたかも乗り気であるかのように、勝手に話を進めていたらしい。
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