103 / 106
98
しおりを挟む
「あれってさぁ……牽制、だよね」
「え、なになに? 何が?」
くすくす笑う先輩に、桑原が問いかける。
「なーいしょ」
「えぇ」
桑原がにこにこと笑った。
「でもさ、杉本って幹部候補かと思ったら、秘書候補だったんだな。何か納得。お前、向いてると思うよ、たぶん。そういう細かい配慮、とかさ」
本当は秘書候補ではなく婿養子候補だったのだが……夏樹は曖昧に頷く。桑原には、折を見て北野のことを話そうと思っている。
秘書の話は、京都で北野から聞いていた。支社長としてサクラオフィスに赴任することを聞いて驚いていると、秘書として支えて欲しいと言われたのだ。
『営業を希望していると聞いたが、俺も自ら動くつもりだ。俺はサクラオフィスを現状維持させるために赴くんじゃない、必ず事業を拡大してみせる。そのためには夏樹のような、相手の懐に自然に入れる目線が欲しい』
夏樹はこれまで、これといった出世欲もなく、安定した職場と収入があればそれでいいと思っていた。
でも北野の話を聞いているうちに、秘書の仕事に興味が出てきた。自分で役に立てるのかと迷う気持ちより、北野を支え、共に働きたいという気持ちの方が勝った。
ただそのあと、北野の送った最後のメールを見た三國専務が『酒癖と女癖の悪い』夏樹の秘書就任に難色を示し、北野が相当に説得して当面は秘書室付きという名目で教育期間をおくことになったとは、夏樹は知る由もない。
そして、渋々ながら認めた三國専務から『秘書就任支度金』というよく分からない名目の慰謝料が振り込まれ、その結構な額に夏樹が驚くことになるのだった。
北野が企画参加していた新製品は続行されることになり、開発一同は、ほっと胸を撫で下ろした。
社内システムのセキュリティを指摘されたシステム管理の木嶋は、腕を捲ってファラオの改良に取りかかった。彼いわく、対社外のセキュリティに重きを置きすぎていて、対社内のセキュリティが手薄になっていたことは盲点だったらしい。
『北條グループは敵が多いから今後はスパイを送り込まれる可能性もあるよね!』と北野の前で無邪気に発言し、その場の空気は一瞬凍ったが、当の北野は『そういうことだ』と笑って木嶋の肩を叩いた。
皆、今回のことはおおむね受け入れているが、やはり何人かは希望退職するらしい。それは、致し方ない。
「え、なになに? 何が?」
くすくす笑う先輩に、桑原が問いかける。
「なーいしょ」
「えぇ」
桑原がにこにこと笑った。
「でもさ、杉本って幹部候補かと思ったら、秘書候補だったんだな。何か納得。お前、向いてると思うよ、たぶん。そういう細かい配慮、とかさ」
本当は秘書候補ではなく婿養子候補だったのだが……夏樹は曖昧に頷く。桑原には、折を見て北野のことを話そうと思っている。
秘書の話は、京都で北野から聞いていた。支社長としてサクラオフィスに赴任することを聞いて驚いていると、秘書として支えて欲しいと言われたのだ。
『営業を希望していると聞いたが、俺も自ら動くつもりだ。俺はサクラオフィスを現状維持させるために赴くんじゃない、必ず事業を拡大してみせる。そのためには夏樹のような、相手の懐に自然に入れる目線が欲しい』
夏樹はこれまで、これといった出世欲もなく、安定した職場と収入があればそれでいいと思っていた。
でも北野の話を聞いているうちに、秘書の仕事に興味が出てきた。自分で役に立てるのかと迷う気持ちより、北野を支え、共に働きたいという気持ちの方が勝った。
ただそのあと、北野の送った最後のメールを見た三國専務が『酒癖と女癖の悪い』夏樹の秘書就任に難色を示し、北野が相当に説得して当面は秘書室付きという名目で教育期間をおくことになったとは、夏樹は知る由もない。
そして、渋々ながら認めた三國専務から『秘書就任支度金』というよく分からない名目の慰謝料が振り込まれ、その結構な額に夏樹が驚くことになるのだった。
北野が企画参加していた新製品は続行されることになり、開発一同は、ほっと胸を撫で下ろした。
社内システムのセキュリティを指摘されたシステム管理の木嶋は、腕を捲ってファラオの改良に取りかかった。彼いわく、対社外のセキュリティに重きを置きすぎていて、対社内のセキュリティが手薄になっていたことは盲点だったらしい。
『北條グループは敵が多いから今後はスパイを送り込まれる可能性もあるよね!』と北野の前で無邪気に発言し、その場の空気は一瞬凍ったが、当の北野は『そういうことだ』と笑って木嶋の肩を叩いた。
皆、今回のことはおおむね受け入れているが、やはり何人かは希望退職するらしい。それは、致し方ない。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる