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今日も今日とて、桑原は社員食堂の定位置に座っていた。安定のA定食を手に、夏樹が近付く。
A定食が売りの社員食堂だが、ちなみにB定食は存在しない。
以前、ここには料理長の座を争う2人のシェフがいたのだが、ある時、A、B定食それぞれでランチ対決をして見事A定食が勝利した。B定食のシェフは厨房を去ったのだが、当時の努力と栄光を忘れまいと、『A定食』の名のみが残されたという訳だった。
本日のA定食は、ミモザ風カツレツだ。
「おう、お疲れ!」
軽く手を上げて声をかける桑原に、夏樹は小さな紙袋を差し出して席に着いた。
「お疲れー。それ、お土産」
「おっ、サンキュー! ……ん? 忍者サブレ? 何、映画村行ったの?」
紙袋を覗いた桑原が首を傾げる。
「うん。土日、向こうにいたから」
「えー、いいなぁ」
学生時代の有志2人には今更渡せないので、土産は桑原に渡しておく。桑原は意外と甘いもの好きだ。
「で、出張はどうだったよ? てか、何でハイネック着てんの? 寒い? ……え、えっ?」
急にぎょっとしたように、桑原が身を乗り出して夏樹を凝視する。
「えっ、何? 何だよ、桑原」
「……嘘だ」
「何が?」
桑原は、まじまじと夏樹を上から下までぐるりと見た。
「ええぇ、嘘だろ? ……うわぁ、マジかぁ」
桑原は椅子の背もたれに体を戻すと、額に手を当てて大袈裟に天井を仰ぐ。
「何? どしたの」
「……お前」
「? うん」
桑原が、じとりと視線を投げた。
「……開けたよな、扉」
「扉? 何の?」
「見えてんだよ、キスマーク」
「えっ!?」
夏樹は慌てて首元を押さえた。
土曜日の夜に北野につけられたキスマークは思いのほか色濃く残った。月曜日の今日もまだ消えなくて、仕方なくハイネックを着用したのだ。服装フリーの部署で良かったと、しみじみ思った。
「何でだよう。どこの男だよう。お前、ノーマルだったじゃん」
桑原が、がくりと肩を落として言う。何故、相手が男だとバレているのだろう?
「そんなの分かるよー。俺、ずっとお前狙ってたんだから」
「ええっ!?」
思わず声が裏返った。
今日も今日とて、桑原は社員食堂の定位置に座っていた。安定のA定食を手に、夏樹が近付く。
A定食が売りの社員食堂だが、ちなみにB定食は存在しない。
以前、ここには料理長の座を争う2人のシェフがいたのだが、ある時、A、B定食それぞれでランチ対決をして見事A定食が勝利した。B定食のシェフは厨房を去ったのだが、当時の努力と栄光を忘れまいと、『A定食』の名のみが残されたという訳だった。
本日のA定食は、ミモザ風カツレツだ。
「おう、お疲れ!」
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紙袋を覗いた桑原が首を傾げる。
「うん。土日、向こうにいたから」
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「で、出張はどうだったよ? てか、何でハイネック着てんの? 寒い? ……え、えっ?」
急にぎょっとしたように、桑原が身を乗り出して夏樹を凝視する。
「えっ、何? 何だよ、桑原」
「……嘘だ」
「何が?」
桑原は、まじまじと夏樹を上から下までぐるりと見た。
「ええぇ、嘘だろ? ……うわぁ、マジかぁ」
桑原は椅子の背もたれに体を戻すと、額に手を当てて大袈裟に天井を仰ぐ。
「何? どしたの」
「……お前」
「? うん」
桑原が、じとりと視線を投げた。
「……開けたよな、扉」
「扉? 何の?」
「見えてんだよ、キスマーク」
「えっ!?」
夏樹は慌てて首元を押さえた。
土曜日の夜に北野につけられたキスマークは思いのほか色濃く残った。月曜日の今日もまだ消えなくて、仕方なくハイネックを着用したのだ。服装フリーの部署で良かったと、しみじみ思った。
「何でだよう。どこの男だよう。お前、ノーマルだったじゃん」
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「そんなの分かるよー。俺、ずっとお前狙ってたんだから」
「ええっ!?」
思わず声が裏返った。
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