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◇
ダウンライトがほのかに照らされた北野の寝室は、窓から低い月が見えた。やけに光って見える満月に近そうな月に、夏樹の不安が漠然と膨らんでゆく。
大きなベッドの真っ白なシーツの上で、夏樹はちら、と北野を見上げた。
「あ、あの……俺は、その」
雰囲気に流されたままここに来てしまった夏樹は、ごくりと唾を飲み込んだ。
北野が、ゆっくりと夏樹の上に乗り上げてくる。口端を持ち上げながら。
「分かってる。嫌なことは、しないから」
「……本当に?」
「ああ」
「言ったよ?」
「ああ」
無意識に体を上にずらす夏樹の肩をぐっと掴んだ北野の、口元が緩やかに笑う。
(……何で笑ってんの? 怖いんだけど)
「大丈夫だよ。すぐに、よくなる」
「え、……あっ」
ふいにスウェットの上衣の下に手を差し込まれ、乾いた手の感触にぴくりと体が揺れた。するすると脇腹を撫でられ、ぞくぞくと力が抜けてゆく。首筋に当たる息が、くすぐったくて、熱い。
「んん……北野、さ」
「百合親だ」
「……ゆり、ちか、あっ」
名前を口にすると、じゅっと首筋を吸われた。唇は少しずつ上へと移動して、耳元にこもった息がかかる。
「好きだ……夏樹」
「っ、」
直接耳に吹き込まれ、頭が痺れた気がした。思わずしがみつく夏樹に、北野の体重がのしかかる。
「……俺も……俺も、好き……」
いつの間にか、好きになっていた。こんな風に恋に落ちる日がくるなんて、まして同性の人に焦がれる日がくるなんて、思ってもみなかった。
前に楓が、『好きになる人の性別は関係ない』と言っていたことをふいに思い出す。今なら、その意味が、分かる。
持ち上げるように脱がされたスウェットの上衣が、ばさりと床に落ちる。寒いと感じる間もなく、自身の上衣も脱ぎ捨てた北野の体が覆い被さった。熱いくらいの体温が、じわりと体に馴染む。
「……気持ちいい」
肌と肌が触れ合うと、何故こんなに幸せな気持ちになれるのだろう。人の重みが、こんなに嬉しく感じるのは何故だろうか。
「ああ……何か、幸せ」
しみじみと呟く夏樹に、北野がくくっと笑った。その振動がくすぐったい。
「可愛いことを言う。……もっと幸せな気分にしてやるよ」
顔を上げた北野の口端はくっきりと弧を描いた。明るかった月が一瞬雲に隠れて、再び現れる。より濃くなった北野の瞳が、夏樹を見下ろして細められる。
長い夜は、まだ始まったばかりだった──
☆お知らせ☆
ここまでお読みくださり、ありがとうございます。
次頁より、京都の夜のシーン(R18)が少し入ります。苦手な方は、☆ページを飛ばしてください。本編の流れに影響はありませんので、どうぞよろしくお願いします。
ダウンライトがほのかに照らされた北野の寝室は、窓から低い月が見えた。やけに光って見える満月に近そうな月に、夏樹の不安が漠然と膨らんでゆく。
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「……本当に?」
「ああ」
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「ああ」
無意識に体を上にずらす夏樹の肩をぐっと掴んだ北野の、口元が緩やかに笑う。
(……何で笑ってんの? 怖いんだけど)
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「え、……あっ」
ふいにスウェットの上衣の下に手を差し込まれ、乾いた手の感触にぴくりと体が揺れた。するすると脇腹を撫でられ、ぞくぞくと力が抜けてゆく。首筋に当たる息が、くすぐったくて、熱い。
「んん……北野、さ」
「百合親だ」
「……ゆり、ちか、あっ」
名前を口にすると、じゅっと首筋を吸われた。唇は少しずつ上へと移動して、耳元にこもった息がかかる。
「好きだ……夏樹」
「っ、」
直接耳に吹き込まれ、頭が痺れた気がした。思わずしがみつく夏樹に、北野の体重がのしかかる。
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いつの間にか、好きになっていた。こんな風に恋に落ちる日がくるなんて、まして同性の人に焦がれる日がくるなんて、思ってもみなかった。
前に楓が、『好きになる人の性別は関係ない』と言っていたことをふいに思い出す。今なら、その意味が、分かる。
持ち上げるように脱がされたスウェットの上衣が、ばさりと床に落ちる。寒いと感じる間もなく、自身の上衣も脱ぎ捨てた北野の体が覆い被さった。熱いくらいの体温が、じわりと体に馴染む。
「……気持ちいい」
肌と肌が触れ合うと、何故こんなに幸せな気持ちになれるのだろう。人の重みが、こんなに嬉しく感じるのは何故だろうか。
「ああ……何か、幸せ」
しみじみと呟く夏樹に、北野がくくっと笑った。その振動がくすぐったい。
「可愛いことを言う。……もっと幸せな気分にしてやるよ」
顔を上げた北野の口端はくっきりと弧を描いた。明るかった月が一瞬雲に隠れて、再び現れる。より濃くなった北野の瞳が、夏樹を見下ろして細められる。
長い夜は、まだ始まったばかりだった──
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次頁より、京都の夜のシーン(R18)が少し入ります。苦手な方は、☆ページを飛ばしてください。本編の流れに影響はありませんので、どうぞよろしくお願いします。
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