杉本君について

葉月凛

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「楓さんは、北野さんのことばっかり話してたよ」
「そうか」

 穏やかに微笑む北野は、どこまで楓の気持ちに気付いているのだろう。

 カーテンを開け放したままの大きな窓から、夜の京都の街並みが低く見える。最上階といっても、この部屋は10階だ。京都は、景観を守る観点から建築規制があるらしい。

「いとこは一生もんだって、言ってた」
「そうだな。あいつは、家族よりも家族だから」

 北野が、優しそうに目を細めた。

「杉本、前に俺と一緒だって言ったの、覚えてるか? 親が離婚していて、ひとりっ子で」
「うん……何かもう、失礼すぎたよね、ごめん」

 夏樹は恐縮したように、肩を竦めた。

「いや、そうじゃなくてな。正直、驚いたんだよ。同じような環境で何でこんなに、のびのびと優しい人間に育ってるんだろうって」
「え?」
「俺は、だめだったからな。ぜんぜん、だめだ。周りの人間なんて、誰1人信用しなかった。唯一の味方が楓と美弥子だ」
「………」
「あいつらがいなかったら、悲惨な幼少期だったろうな。随分とひねくれて扱いにくい子供だったから」

 お前とは大違いだろう、と北野は自嘲するようにくくっと笑った。

「あー……俺の場合は、ちょっと状況が違う、かも」

 夏樹は、少し眉を下げた。

「俺の場合はさ、両親とも俺をいらなくて、引き取ってくれる親戚もなかなか見つかんなくて、施設にいたりしたからさ。周りの大人に嫌われたら、もうやっていけないのよ、切実に」
「………」
「だから、周りの大人の機嫌を損ねないように、ちょっとでも好かれるように……っ、」
「分かった、もういい」

 突然、こちらに回り込んだ北野に抱きしめられた。

「……どうしたの?」
「分かったから……泣くな」
「え? 何言ってんの、泣いてな……」

 ぎゅっと頭を抱き込まれて、夏樹は自分が泣いていることに気が付いた。

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