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◇
「すみません。今日も、お世話になります……」
夏樹が、そろそろと北野について部屋に入る。
あのあと、小川の無個性発言にそこそこショックを受けた夏樹はコスプレこそしなかったが、夕方まで存分に映画村を堪能した。それから『湯葉の美味しい店があるから』と北野に誘われるまま京料理の店でご馳走になり、『もう1泊していけ』という言葉に甘えて、今に至る。今日は土曜日だから、明日帰れば大丈夫だ。
のんびりと風呂に入り、楓のものと思われるまた別のスウェットを身に着け、リビングのソファーで冷えたお茶を飲む。この部屋は、居心地がいい。楓が居着くのも分かる。
「楓から連絡がきたぞ、今日は実家に帰るそうだ。おそらく小川さんに付き合って、最後は実家に送り届けられるパターンだな」
間違ってもここには送ってもらえない、と北野は笑った。
「楓さん、大丈夫かなぁ」
「平気だよ、あいつ枕営業はしないから」
「っ、」
自身も風呂に入った北野が、夏樹の向かいに腰を下ろして髪を拭く。濡れた髪は、くるりと癖が出ていた。
「楓とは、どんな話をしたんだ? あいつがこんなに気を許すなんて、珍しい」
「そうかな? そんなことないと思うけど……」
気を許していただろうか? 結構、容赦のないジャブをもらった気がする。
「今日着てた服、杉本にやるってさ。持って帰ってくれって」
「え! そんなの、もらえないよっ」
夏樹は慌てて手を振った。さすがにあんな高そうな服はもらえない。ちらりと見えたタグは、夏樹でも知っている有名ブランドのものだった。ただ、高そうなブランド物に混じって3足千円の靴下が混在しているのは違和感しかなかったが。
「楓は詫びのつもりなんだよ、もらってやってくれ」
「でも……」
「似合ってたぞ。まぁ、あいつのお古で悪いが……」
「そんなことはないよっ。じゃあ……ありがたく」
お古どころか、三國楓が着た服なんてプレミアがつきそうだ。特別な日に着ることにしよう、と密かに喜ぶ夏樹だった。
「すみません。今日も、お世話になります……」
夏樹が、そろそろと北野について部屋に入る。
あのあと、小川の無個性発言にそこそこショックを受けた夏樹はコスプレこそしなかったが、夕方まで存分に映画村を堪能した。それから『湯葉の美味しい店があるから』と北野に誘われるまま京料理の店でご馳走になり、『もう1泊していけ』という言葉に甘えて、今に至る。今日は土曜日だから、明日帰れば大丈夫だ。
のんびりと風呂に入り、楓のものと思われるまた別のスウェットを身に着け、リビングのソファーで冷えたお茶を飲む。この部屋は、居心地がいい。楓が居着くのも分かる。
「楓から連絡がきたぞ、今日は実家に帰るそうだ。おそらく小川さんに付き合って、最後は実家に送り届けられるパターンだな」
間違ってもここには送ってもらえない、と北野は笑った。
「楓さん、大丈夫かなぁ」
「平気だよ、あいつ枕営業はしないから」
「っ、」
自身も風呂に入った北野が、夏樹の向かいに腰を下ろして髪を拭く。濡れた髪は、くるりと癖が出ていた。
「楓とは、どんな話をしたんだ? あいつがこんなに気を許すなんて、珍しい」
「そうかな? そんなことないと思うけど……」
気を許していただろうか? 結構、容赦のないジャブをもらった気がする。
「今日着てた服、杉本にやるってさ。持って帰ってくれって」
「え! そんなの、もらえないよっ」
夏樹は慌てて手を振った。さすがにあんな高そうな服はもらえない。ちらりと見えたタグは、夏樹でも知っている有名ブランドのものだった。ただ、高そうなブランド物に混じって3足千円の靴下が混在しているのは違和感しかなかったが。
「楓は詫びのつもりなんだよ、もらってやってくれ」
「でも……」
「似合ってたぞ。まぁ、あいつのお古で悪いが……」
「そんなことはないよっ。じゃあ……ありがたく」
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