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「あれ? 楓君?」
声のする方を振り向くと、スーツ姿の男性が軽く手を上げて近付いて来た。
「どうしたの? こっちで撮影?」
40代くらいのその男性は、気軽に楓に声をかける。
「あれ、小川さんやん! 仕事ちゃうで、プライベート」
「プライベート?」
「そうそう、デートやし」
にこ、と笑った楓がするりと北野の腕に自分の腕を絡めると、小川が微かに顔をしかめ、すぐに笑顔を作った。
「変わったところでデートするんだね、楓君はやっぱり面白い」
「そう? 小川さんは撮影か何か?」
「そうだよ。そっちの可愛い子はモデル仲間?」
小川の視線が夏樹に向く。
「その服、楓君のだよね? 見たことあるよ」
「えー俺の服覚えてんの? ストーカーやん」
「何言ってんの、そんな特徴のある服着るの、楓君くらいだから」
ストーカーと言われたにも関わらず、小川はにこにこと笑った。
楓のセレクトの際に夏樹はヒョウ柄を極力避けたのだが、そもそもヒョウ柄の入っていない服の方が少なくて、今着ているシャツはボタンホールがヒョウ柄だった。ちなみに原色は遠慮して、ナチュラルな生成り地にしてもらっている。
それでもやはりプロのコーディネートは素晴らしく、夏樹もそれなりの見栄えになっている。仕上がった夏樹を見た北野の顔には間違いなく、『馬子にも衣装』と書いてあった。
小川が、にこにこと夏樹を見る。
「楓君のところの子にしては、普通だね。でも服を際立たせるなら、このくらい無個性の方がいいと思うんだよねぇ。顔も印象に残らないし。うん、なかなかいいんじゃない?」
……何だろう、褒められてる気がしない。
「実はね、今、アパレルメーカーから依頼が来てるんだ。主要な駅のね、デジタルサイネージ。モデルの提案も任されてるんだよねぇ。その子は、新人?」
楓の眉が、ぴくりと動く。
「この子はモデルちゃうでー、ゆりちゃんのお友達や」
そう言うと、するりと北野の腕を解いた。
声のする方を振り向くと、スーツ姿の男性が軽く手を上げて近付いて来た。
「どうしたの? こっちで撮影?」
40代くらいのその男性は、気軽に楓に声をかける。
「あれ、小川さんやん! 仕事ちゃうで、プライベート」
「プライベート?」
「そうそう、デートやし」
にこ、と笑った楓がするりと北野の腕に自分の腕を絡めると、小川が微かに顔をしかめ、すぐに笑顔を作った。
「変わったところでデートするんだね、楓君はやっぱり面白い」
「そう? 小川さんは撮影か何か?」
「そうだよ。そっちの可愛い子はモデル仲間?」
小川の視線が夏樹に向く。
「その服、楓君のだよね? 見たことあるよ」
「えー俺の服覚えてんの? ストーカーやん」
「何言ってんの、そんな特徴のある服着るの、楓君くらいだから」
ストーカーと言われたにも関わらず、小川はにこにこと笑った。
楓のセレクトの際に夏樹はヒョウ柄を極力避けたのだが、そもそもヒョウ柄の入っていない服の方が少なくて、今着ているシャツはボタンホールがヒョウ柄だった。ちなみに原色は遠慮して、ナチュラルな生成り地にしてもらっている。
それでもやはりプロのコーディネートは素晴らしく、夏樹もそれなりの見栄えになっている。仕上がった夏樹を見た北野の顔には間違いなく、『馬子にも衣装』と書いてあった。
小川が、にこにこと夏樹を見る。
「楓君のところの子にしては、普通だね。でも服を際立たせるなら、このくらい無個性の方がいいと思うんだよねぇ。顔も印象に残らないし。うん、なかなかいいんじゃない?」
……何だろう、褒められてる気がしない。
「実はね、今、アパレルメーカーから依頼が来てるんだ。主要な駅のね、デジタルサイネージ。モデルの提案も任されてるんだよねぇ。その子は、新人?」
楓の眉が、ぴくりと動く。
「この子はモデルちゃうでー、ゆりちゃんのお友達や」
そう言うと、するりと北野の腕を解いた。
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