杉本君について

葉月凛

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          ◇

「うわぁ! すっげぇ! マジかぁ!」

 夏樹は目を輝かせて、きょろきょろと周りを見渡した。

「えぇ……マジか」

 その隣で、北野と楓がぬるい視線を向ける。

「行きたいところって、お前……」
「てかさ。俺、ついこないだ来たとこやねんけど。撮影で」

 軒の低い瓦屋根の町屋が並び、格子窓に提灯がぶら下がる。茶屋作りの店屋の前に、それらしく並んだ木製の低いテーブル。昔ながらの江戸の町並みを再現した、そうここは──

「来たかったんだよね! 映画村!!」

 夏樹たち3人は、京都でも有名な観光地、映画村に来ていた。

「夏樹クンの来たかったとこって、ここなん!?」

 叫ぶ楓の変装を兼ねた茶色いサングラスが、江戸の風景から浮いていた。

 隣に立つ北野は、今日は眼鏡をかけていない。ちなみに北野の眼鏡は、サクラオフィスに来るに当たり、やはり変装の一環だったらしい。視力はすこぶるいいとのことだった。

 もっと情緒のあるとこあるやろ、とぶつぶつ言っている楓を横目に、北野もおかしそうに目を細める。

「意外なところチョイスするんだな。時代劇が好きなのか?」
「うん、歴史もの大好き! 修学旅行で京都来たんだけど、コースに入ってなかったんだよね。クラスごとの自由行動の日も、多数決で負けちゃって」

 行き先を決める多数決では、映画村は夏樹を入れてたったの3票だけで、結託した女子による圧倒的多数で有名な橋のある某観光名所に決まってしまった。
 今日の土産をぜひともあの日の有志2人に送りたい、と苦い思い出を噛みしめる。

 行き交う人の中には着物姿も混じっていて、中には役者らしい侍までいた。

 昨日、着流し姿で現れた楓を思い出す。さすがモデルだけあって、恐ろしく似合っていた。

 確か、着物のレンタルができたのではないか? ここは1つ、思い切って自分もお侍さんになってみるのもいいかもしれない、などと真剣に考えていると、ふいに近くで声がした。

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