87 / 106
87
しおりを挟む
夏樹は、あまりにこの家に馴染んでいる楓に首を傾げた。
「あの、楓さんて、もしかしてここに住んでるの?」
この靴にしろ服にしろ、やたらと楓の物が多い。通販のスウェットもここの住所に頼んでいたし、合鍵も持っていた。
「まさかぁ。ちょくちょく来てるだけやで。俺、実家暮らしやし」
仕事場が近い時は長期滞在するけど、と言いつつ靴紐を解く。
(ちょくちょく?)
夏樹は、感じた違和感を口にする。
「あのさ、前にテレビで、初恋の人とは『再会した』って言ってたけど、あれって」
「うん、久しぶりの再会やったでぇ、ゆりちゃん。1か月ぶりくらいかなぁ」
……普通、再会したって言われたら、年単位だと思わないか?
「ぜんぜん変わってなかったって」
「そら、1か月くらいで変わってたら怖いわぁ」
楓が、にぃっと振り返る。
「嘘なんかゆうてへん。リップサービスやん、いややわぁ」
「っ、」
……芸能人って、怖い。
「うん、これにしぃ。履いてみて、履いてみて。……あ、ええやん」
楓セレクトの靴を履くと、ぴったりと足に馴染んだ。
「俺はこっちのんにしよ」
ごそごそと自分の靴も選んだ楓が立ち上がる。
「さーて、俺も着替えてこよ」
「あ、楓さん」
「え?」
振り返る楓に、夏樹は少しだけ考えて、口を開く。
「あの……北野さんね、うちの会社に来た時、ぜんぜん笑わない人だったよ。楓さんが会社に来た時、楽しそうに笑うの見てびっくりしたんだ、周りの人もそう思ったと思う」
楓が、夏樹をじっと見る。
「北野さんは、楓さんのことすごく大事に思ってるんだと思う。楓さんに助けられたって、良い奴だって、言ってた。北野さんは」
楓はつかつかと夏樹に歩み寄ると、ぎゅっと鼻をつまんだ。
「──生意気」
「っ、」
パッと手を離した楓は、くるりと背を向けた。
「ほら! 時間もったいないから早よ着替えや」
ひらひらと手を振って、楓は私物化しているゲストルームに入る。ちらりと見えた横顔は、口端がゆるく持ち上がっていた。
「あの、楓さんて、もしかしてここに住んでるの?」
この靴にしろ服にしろ、やたらと楓の物が多い。通販のスウェットもここの住所に頼んでいたし、合鍵も持っていた。
「まさかぁ。ちょくちょく来てるだけやで。俺、実家暮らしやし」
仕事場が近い時は長期滞在するけど、と言いつつ靴紐を解く。
(ちょくちょく?)
夏樹は、感じた違和感を口にする。
「あのさ、前にテレビで、初恋の人とは『再会した』って言ってたけど、あれって」
「うん、久しぶりの再会やったでぇ、ゆりちゃん。1か月ぶりくらいかなぁ」
……普通、再会したって言われたら、年単位だと思わないか?
「ぜんぜん変わってなかったって」
「そら、1か月くらいで変わってたら怖いわぁ」
楓が、にぃっと振り返る。
「嘘なんかゆうてへん。リップサービスやん、いややわぁ」
「っ、」
……芸能人って、怖い。
「うん、これにしぃ。履いてみて、履いてみて。……あ、ええやん」
楓セレクトの靴を履くと、ぴったりと足に馴染んだ。
「俺はこっちのんにしよ」
ごそごそと自分の靴も選んだ楓が立ち上がる。
「さーて、俺も着替えてこよ」
「あ、楓さん」
「え?」
振り返る楓に、夏樹は少しだけ考えて、口を開く。
「あの……北野さんね、うちの会社に来た時、ぜんぜん笑わない人だったよ。楓さんが会社に来た時、楽しそうに笑うの見てびっくりしたんだ、周りの人もそう思ったと思う」
楓が、夏樹をじっと見る。
「北野さんは、楓さんのことすごく大事に思ってるんだと思う。楓さんに助けられたって、良い奴だって、言ってた。北野さんは」
楓はつかつかと夏樹に歩み寄ると、ぎゅっと鼻をつまんだ。
「──生意気」
「っ、」
パッと手を離した楓は、くるりと背を向けた。
「ほら! 時間もったいないから早よ着替えや」
ひらひらと手を振って、楓は私物化しているゲストルームに入る。ちらりと見えた横顔は、口端がゆるく持ち上がっていた。
0
お気に入りに追加
27
あなたにおすすめの小説

鬼上司と秘密の同居
なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳
幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ…
そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた…
いったい?…どうして?…こうなった?
「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」
スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか…
性描写には※を付けております。
ブライダル・ラプソディー
葉月凛
BL
ゲストハウス・メルマリーで披露宴の音響をしている相川奈津は、新人ながらも一生懸命仕事に取り組む25歳。ある日、密かに憧れる会場キャプテン成瀬真一とイケナイ関係を持ってしまう。
しかし彼の左手の薬指には、シルバーのリングが──
エブリスタにも投稿しています。

【完結】ぎゅって抱っこして
かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。
でも、頼れる者は誰もいない。
自分で頑張らなきゃ。
本気なら何でもできるはず。
でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

怒られるのが怖くて体調不良を言えない大人
こじらせた処女
BL
幼少期、風邪を引いて学校を休むと母親に怒られていた経験から、体調不良を誰かに伝えることが苦手になってしまった佐倉憂(さくらうい)。
しんどいことを訴えると仕事に行けないとヒステリックを起こされ怒られていたため、次第に我慢して学校に行くようになった。
「風邪をひくことは悪いこと」
社会人になって1人暮らしを始めてもその認識は治らないまま。多少の熱や頭痛があっても怒られることを危惧して出勤している。
とある日、いつものように会社に行って業務をこなしていた時。午前では無視できていただるけが無視できないものになっていた。
それでも、自己管理がなっていない、日頃ちゃんと体調管理が出来てない、そう怒られるのが怖くて、言えずにいると…?
【R18+BL】ハデな彼に、躾けられた、地味な僕
hosimure
BL
僕、大祇(たいし)永河(えいが)は自分で自覚するほど、地味で平凡だ。
それは容姿にも性格にも表れていた。
なのに…そんな僕を傍に置いているのは、学校で強いカリスマ性を持つ新真(しんま)紗神(さがみ)。
一年前から強制的に同棲までさせて…彼は僕を躾ける。
僕は彼のことが好きだけど、彼のことを本気で思うのならば別れた方が良いんじゃないだろうか?
★BL&R18です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる