杉本君について

葉月凛

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 夏樹は、あまりにこの家に馴染んでいる楓に首を傾げた。

「あの、楓さんて、もしかしてここに住んでるの?」

 この靴にしろ服にしろ、やたらと楓の物が多い。通販のスウェットもここの住所に頼んでいたし、合鍵も持っていた。

「まさかぁ。ちょくちょく来てるだけやで。俺、実家暮らしやし」

 仕事場が近い時は長期滞在するけど、と言いつつ靴紐を解く。

(ちょくちょく?)

 夏樹は、感じた違和感を口にする。

「あのさ、前にテレビで、初恋の人とは『再会した』って言ってたけど、あれって」
「うん、久しぶりの再会やったでぇ、ゆりちゃん。1か月ぶりくらいかなぁ」

 ……普通、再会したって言われたら、年単位だと思わないか?

「ぜんぜん変わってなかったって」
「そら、1か月くらいで変わってたら怖いわぁ」

 楓が、にぃっと振り返る。

「嘘なんかゆうてへん。リップサービスやん、いややわぁ」
「っ、」

 ……芸能人って、怖い。

「うん、これにしぃ。履いてみて、履いてみて。……あ、ええやん」

 楓セレクトの靴を履くと、ぴったりと足に馴染んだ。

「俺はこっちのんにしよ」

 ごそごそと自分の靴も選んだ楓が立ち上がる。

「さーて、俺も着替えてこよ」
「あ、楓さん」
「え?」

 振り返る楓に、夏樹は少しだけ考えて、口を開く。

「あの……北野さんね、うちの会社に来た時、ぜんぜん笑わない人だったよ。楓さんが会社に来た時、楽しそうに笑うの見てびっくりしたんだ、周りの人もそう思ったと思う」

 楓が、夏樹をじっと見る。

「北野さんは、楓さんのことすごく大事に思ってるんだと思う。楓さんに助けられたって、良い奴だって、言ってた。北野さんは」

 楓はつかつかと夏樹に歩み寄ると、ぎゅっと鼻をつまんだ。

「──生意気」
「っ、」

 パッと手を離した楓は、くるりと背を向けた。

「ほら! 時間もったいないから早よ着替えや」

 ひらひらと手を振って、楓は私物化しているゲストルームに入る。ちらりと見えた横顔は、口端がゆるく持ち上がっていた。

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