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「別にええけど。『北野さん』なぁ。……あのさ」
楓が半分程飲んだミネラルウォーターのボトルをテーブルに置いた。
「夏樹クンの両親も離婚してるんやろ? ゆりちゃんの気持ちって、分かるん?」
「え」
『北野』は、離婚した母親の姓だと前に聞いた。
楓は、ソファーの座面に片足を立てて、抱き込むように丸くなった。
「ゆりちゃん、夏樹クンとおる時、楽しそうやん。あんなゆりちゃん見んの久しぶりやし」
「………」
楽しそう、だっただろうか。
楓は抱えた足の、親指の爪を撫でる。
「あんな。ゆりちゃんの両親も離婚してんの、聞いてるやろ? 小っちゃい頃よううちに来ててんけど、ゆりちゃん、ぜんぜん笑わん子やったから」
子供の頃、両親が諍いを起こすたびに北野が楓の家に預けられていたらしいことも、前に聞いた覚えがある。
「ゆりちゃんのお母さんてヤクザの娘やから、夫婦喧嘩もエグかってんで。よう組の若い奴らがうちまで迎えに来とったわ。『坊っちゃん帰りましょう』ゆうて、ゆりちゃん真っ青なって連れて行かれとった」
……それは、恐ろしいかもしれない。
「あの頃のゆりちゃんて、感情そぎ落としたみたいな顔しとったわ。お母さんにそっくりで、めっちゃきれいやねんけどな、それがかえってお人形さんみたいやった。俺も美弥子も年の近いいとこってゆりちゃんだけやったし、仲良うなりたくて構い倒しててん」
その甲斐あってか、北野は徐々に心を開いていった。一緒に遊ぶようになり、一緒に笑うようになったそうだ。
「仲良うなったらなったで、俺ら見たじいちゃんが美弥子とゆりちゃん結婚させる言い出して。言われた時はびっくりしたけど、でも俺もぜんぜん知らん奴にゆりちゃん取られるくらいやったら美弥子の方がええかなて。美弥子かて、同じ気持ちやったし」
そう言うと、『ぜんぜん知らん』夏樹をじろりと見て、目を逸らした。
「まぁ結局、美弥子は婚約破棄て言い出すし、ゆりちゃんもそれでええゆうし」
「あの、でも……楓さんは北野さんのこと」
楓は、眉間にぎゅっと皺を寄せる。
「好きやで。好きやけど……」
くしゃりと、楓の顔が歪んだ。
「……美弥子やったら、ゆりちゃんのこと分かってるからええ思たんや。ゆりちゃんが幸せになるのが一番やから。それに、付き合うたりして別れたらそれっきりやけど、いとこは一生もんやから。……足の爪切ろ」
楓は、パッと立ち上がると、すたすたとリビングを出て行った。
楓が半分程飲んだミネラルウォーターのボトルをテーブルに置いた。
「夏樹クンの両親も離婚してるんやろ? ゆりちゃんの気持ちって、分かるん?」
「え」
『北野』は、離婚した母親の姓だと前に聞いた。
楓は、ソファーの座面に片足を立てて、抱き込むように丸くなった。
「ゆりちゃん、夏樹クンとおる時、楽しそうやん。あんなゆりちゃん見んの久しぶりやし」
「………」
楽しそう、だっただろうか。
楓は抱えた足の、親指の爪を撫でる。
「あんな。ゆりちゃんの両親も離婚してんの、聞いてるやろ? 小っちゃい頃よううちに来ててんけど、ゆりちゃん、ぜんぜん笑わん子やったから」
子供の頃、両親が諍いを起こすたびに北野が楓の家に預けられていたらしいことも、前に聞いた覚えがある。
「ゆりちゃんのお母さんてヤクザの娘やから、夫婦喧嘩もエグかってんで。よう組の若い奴らがうちまで迎えに来とったわ。『坊っちゃん帰りましょう』ゆうて、ゆりちゃん真っ青なって連れて行かれとった」
……それは、恐ろしいかもしれない。
「あの頃のゆりちゃんて、感情そぎ落としたみたいな顔しとったわ。お母さんにそっくりで、めっちゃきれいやねんけどな、それがかえってお人形さんみたいやった。俺も美弥子も年の近いいとこってゆりちゃんだけやったし、仲良うなりたくて構い倒しててん」
その甲斐あってか、北野は徐々に心を開いていった。一緒に遊ぶようになり、一緒に笑うようになったそうだ。
「仲良うなったらなったで、俺ら見たじいちゃんが美弥子とゆりちゃん結婚させる言い出して。言われた時はびっくりしたけど、でも俺もぜんぜん知らん奴にゆりちゃん取られるくらいやったら美弥子の方がええかなて。美弥子かて、同じ気持ちやったし」
そう言うと、『ぜんぜん知らん』夏樹をじろりと見て、目を逸らした。
「まぁ結局、美弥子は婚約破棄て言い出すし、ゆりちゃんもそれでええゆうし」
「あの、でも……楓さんは北野さんのこと」
楓は、眉間にぎゅっと皺を寄せる。
「好きやで。好きやけど……」
くしゃりと、楓の顔が歪んだ。
「……美弥子やったら、ゆりちゃんのこと分かってるからええ思たんや。ゆりちゃんが幸せになるのが一番やから。それに、付き合うたりして別れたらそれっきりやけど、いとこは一生もんやから。……足の爪切ろ」
楓は、パッと立ち上がると、すたすたとリビングを出て行った。
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