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「おはようございます……」
翌朝、盛大に寝坊した夏樹は、午前9時半を回ってからリビングに顔を出した。
昨夜はカーテンがかかっていて分からなかったが、リビングの側面は全てガラス張りだったようで明るい陽光が部屋の中に降り注いでいる。その広々としたフローリングにマットを敷いて、楓がストレッチを行っていた。ぐぐっと体を反らしながら、夏樹を振り返る。
「おはようて。今何時や思てんねん、おそようやわ」
黒のTシャツにハーフパンツを身に着けた楓が、しなやかに体を伸ばす。
「……お水、もらおうかな」
夏樹がそそくさとキッチンに入ると、楓が立ち上がり、マットをくるくると巻いた。
「コーヒー落ちてんで、勝手に淹れてや」
「あ、ありがとうございます」
見ると、コーヒーメーカーの側にマグカップも置いてある。
「何か食べるんやったら、冷蔵庫、適当に見て」
「いえ、俺、朝は食べないんで」
「うわっ、不健康ー」
楓は汗を拭きながら夏樹の後ろを通り、常温らしいミネラルウォーターを棚から1本取ると、さっさとリビングに戻りソファーに腰を下ろした。
「あの、北野さんは?」
「ゆりちゃんなら、会社行ってる。昼までに戻るゆうてたで」
「そうなんですか」
コーヒーを注いだマグカップを持った夏樹は、どこに座ろうかと一瞬考え、別のところに座るのも不自然だろうと、楓のいるソファーの向かいにそっと腰を下ろした。
2人で黙って、飲み物に口をつける。
「……ええと」
先に口を開いたのは、夏樹だった。
「あの、スウェット、ほんとにすみませんでした。洗って返しますので……あ、いやクリーニングに」
今は、昨日着ていたワイシャツにスラックスだ。
「もうええよ。ランドリーボックスに入れといて」
「ランドリーボックス?」
「お風呂場にあったやろ? キーパーさんが洗ろてくれるから」
「キーパーさん」
「週2回、ハウスキーパーさん来てくれてるから」
どうやら掃除はプロが入っているらしい。
「あの、新品だったのに、ほんとにすみません」
「ええて。1ぺん洗ろた方が好きやし。てか、敬語もええで。夏樹クン25やろ? そない変わらんし」
「あ……う、ん」
楓は確か、夏樹の1つ上だったか。
「ゆりちゃんには気安くタメ口きいてるみたいやし?」
「あ、それはあの、北野さんは、えと」
北野がまさか北條ホールディングスの会長の孫だなんて知らなかったし、一応職場では先輩という立場だったのだが、楓がそんなこと知る筈もない。
「おはようございます……」
翌朝、盛大に寝坊した夏樹は、午前9時半を回ってからリビングに顔を出した。
昨夜はカーテンがかかっていて分からなかったが、リビングの側面は全てガラス張りだったようで明るい陽光が部屋の中に降り注いでいる。その広々としたフローリングにマットを敷いて、楓がストレッチを行っていた。ぐぐっと体を反らしながら、夏樹を振り返る。
「おはようて。今何時や思てんねん、おそようやわ」
黒のTシャツにハーフパンツを身に着けた楓が、しなやかに体を伸ばす。
「……お水、もらおうかな」
夏樹がそそくさとキッチンに入ると、楓が立ち上がり、マットをくるくると巻いた。
「コーヒー落ちてんで、勝手に淹れてや」
「あ、ありがとうございます」
見ると、コーヒーメーカーの側にマグカップも置いてある。
「何か食べるんやったら、冷蔵庫、適当に見て」
「いえ、俺、朝は食べないんで」
「うわっ、不健康ー」
楓は汗を拭きながら夏樹の後ろを通り、常温らしいミネラルウォーターを棚から1本取ると、さっさとリビングに戻りソファーに腰を下ろした。
「あの、北野さんは?」
「ゆりちゃんなら、会社行ってる。昼までに戻るゆうてたで」
「そうなんですか」
コーヒーを注いだマグカップを持った夏樹は、どこに座ろうかと一瞬考え、別のところに座るのも不自然だろうと、楓のいるソファーの向かいにそっと腰を下ろした。
2人で黙って、飲み物に口をつける。
「……ええと」
先に口を開いたのは、夏樹だった。
「あの、スウェット、ほんとにすみませんでした。洗って返しますので……あ、いやクリーニングに」
今は、昨日着ていたワイシャツにスラックスだ。
「もうええよ。ランドリーボックスに入れといて」
「ランドリーボックス?」
「お風呂場にあったやろ? キーパーさんが洗ろてくれるから」
「キーパーさん」
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どうやら掃除はプロが入っているらしい。
「あの、新品だったのに、ほんとにすみません」
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「あ……う、ん」
楓は確か、夏樹の1つ上だったか。
「ゆりちゃんには気安くタメ口きいてるみたいやし?」
「あ、それはあの、北野さんは、えと」
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