杉本君について

葉月凛

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「そうだ杉本。今回のお詫びに、明日、京都観光に連れて行ってやるよ」
「え、いいよ、そんな」

 突然の北野の提案に、夏樹が驚いて遠慮する。すると、楓がパッと顔を上げた。

「京都観光? ええやん! 俺も明日は休みやし、一緒に行ったるわ」
「えっ! ほんとにいいって」

 夏樹が、ぎょっとして断る。
 楓に対しては、どうも苦手意識が拭えない。というか、楓は北野と出かけたいだけだろう。

「遠慮するな。どこか行きたいところはないのか?」
「でも」

 おろおろと断る夏樹に、楓が苛々と湯呑みを置いた。

「もうっ。この俺が付きおうたるゆうてんねんで! ありがたく受けといたらどない!」
「っ、」

 北野が、飲み終わった湯呑みを持って立ち上がる。

「楓は、明日本当に休みなのか?」
「そうやで! だからゆりちゃんと一緒に行く」

 既に夏樹が入っていないのは気のせいか。

「じゃあ、今日は泊まっていくのか?」
「うん! いつもの部屋、貸してな」
「それは構わないが……本当に休みなんだろうな?」
「もう、信用ないなぁ。ほんまに休みやって。ってか、今何時? うわっ、もう12時やんっ。日ぃ変わる前に寝な肌荒れる! ほら、夏樹クンも寝るでぇ」
「えっ」

 立ち上がった楓に腕を引っ張られた夏樹も、つられて立ち上がる。

「ほな、ゆりちゃん、おやすみぃ」
「おう、おやすみ。杉本、行きたいところ考えておけよ」
「あっ……おやすみなさい」

 楓に引きずられるように、ゲストルームに連れて行かれる。ドアの前で、きれいな顔がぐっと近付いた。

「──なぁ。夜中、一歩でもこの部屋出たら……分かってるやろな?」
「っ、」

 それは……夜這いをかけるな、ということだろうか? 北野に? 考えすぎにも程があるのではないか。

「ほら。トイレ、行っときやぁ」

 楓が、にぃ、と口端を上げる。北野が絡んだ楓は恐ろしい。

 こくこくと頷く夏樹はその晩、先斗ぽんと町の泡風呂にぶくぶくと溺れる夢を見た。

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